膨れ上がっていた魔力が急激にしぼんでいくのを感じた。集中を欠かれたためだ。
今、彼はなんと言ったのか。恨み言を言われたのではないことは分かる。それは分かるのだが・・・・。
魔法に対するあらゆる知識を持つハイウィザードは、その暴走による危険性も熟知している。
そのため、どんなことがあっても集中を途切れさせることのないように日夜鍛錬を続けている。
それはカトリーヌとて例外ではない。ないのだが。
「・・・・・あれ・・・・・魔力が・・・・・・・・・え?」
普段から練り上げ、いつでも魔法が使えるようにしていたはずの魔力さえも霧散してしまっている。
おかしい。一生懸命練り上げようとしても上手くいかない。しかもそれがなぜだかわからない。それだけカトリーヌは混乱していた。
青年を見ると、少しうつむきながらぎゅっと目を瞑り、何かを待っているようだった。見てて可哀想なくらい顔が赤い。
彼は待っている。それがなにかはよくわからないが、何か言わなくては。
そう感じ、カトリーヌはその艶やかな唇を開いた。
「・・・・・・・・わ「こらーーーっ!カトリっ!警報聞こえなかったの!!?」」
しかし、その声はノックもせずに部屋に入ってきた者の怒鳴り声に掻き消された。
スナイパーの衣装に身を包んだ女性。カトリーヌと共にここに住んでいる女性、セシル=ディモンだ。
セシルは、カトリーヌと一緒の部屋にいた青年に全く気づかずに、ツカツカと、否、ズンズンとカトリーヌの前に歩いてきた。
「ほら!侵入者よ!今回は珍しく一人みたいだけど、それほど自信があるってことなんでしょ。
さっさと追い返しちゃおう!あーもー!なんで今日はこんなに侵入者が多いのよ!!!」
この調子じゃ晩御飯もまともに食べられないじゃない!と、機関銃のようにまくしたてながら、セシルは頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
美しい金色の髪が乱れる。敵と対峙してもいないのに、彼女の周囲からは赤い稲妻のようなものがバチバチと音をたてていた。
その剣幕に、混乱に拍車がかかったカトリーヌは完全に頭が真っ白になってしまっていた。
この後にどんな状況になるかも考えることもできずに、
彼を指差した。
「・・・ん?どうしたのよカトリ・・・・・っ!」
カトリーヌが指差した先に目を向けたセシルは、そこにいるはずのないモノを捉えた。
自分達以外の、人間。
それを確認した後のセシルの反応は迅かった。
「あんたかあああああああああぁぁぁ!!!」
一瞬でセシルの手には弓が握られ、もう片方の手には矢が二本出現していた。
二本の矢をまとめて弓に番え、引き絞る。そこまででコンマ数秒程しかかかっていなかった。
「ダブルストレイ・・・」
「え。ちょ!ま・・・」
「フィング!!」
「く!」
音速を超えるかという速度で二本の矢が青年を襲う。
しかし矢は青年の頭の上を通り、岩で出来た、いかにも頑丈そうな壁に軽々と突き刺さった。
「・・・な!・・・わ、私が的を外すなんて・・・!」
そこまでありえないことなのだろう。セシルは呆然と目の前にいる青年を見、そして気づいた。
「高さが変わってる!?」
ばっと自分の足元を見る。すると自分が立っている場所の半径1メートル程が30センチほど盛り上がっていた。
「聞いてくれ!ぼ、僕は、君達と戦いに来たんじゃないん・・・!」
青年は最後まで言葉を続けられなかった。いつの間にか首元に刃物が突きつけられていた。
カタール。アサシンが好んで使う武器だ。
「・・・・動くな。声を出すな。武器を捨てろ。少しでも妙な真似をすれば、自分の首から噴き出す血を見ることになる。」
恐怖に駆られ、青年は杖から手を放した。カラーン、と澄んだ音が響いた。
「危ないところでござったな。もう大丈夫でござる。」
青年の背後に立つのは漆黒の衣を身に纏った痩躯の男だった。男を見て、セシルは一瞬喜びの表情を浮かべ、
慌てたようにすぐにそれを怒りの表情にすり替えた。
「お、遅いわよエレメス!」
「ちょwwwwwwwセシル殿が遅いので急いで来たのにそれはひどいでござるwww」
遠くから数人の足音が聞こえる。「カトリーヌ!」と自分を呼ぶ声が聞こえる。部屋では二人の言い合いが続いている。
カトリーヌはまだ頭が真っ白だった。
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