・・・それは1時間程前の出来事・・・

カプセルの中で眠っている実験体オリジナル12体全員分のロックが何者かによって
突然に解除された

「消化班急げ!」
「所長!ここは危険です!Dブロックへ移動を!」
「ええいっ五月蝿い!あれは私の大事な研究材料だ、早く捕まえろ!絶対に逃がすな」

防火服に身を囲んだリムーバ達が研究所で発生している火災の消化にあたっている
なぜだ?火を使える実験体は考えうる限りカトリーヌとラウレルの二名に絞られるはずだ
反応を見る限り二人はまだ2Fと3Fから脱出していない・・・ならこの火災の原因は一体?
理由がわからない・・・確かめなければ・・・

「誰か所長を安全な場所へっ!」

白衣を着た研究班の部下が左右から両脇を掴み前に進もうとする私の邪魔をする。

「私は所長だぞ!ええいっ邪魔をするな!」

直後、激痛が走り体に力が入らなくなる。馬鹿どもめ所長の私にスタンガンを使うとは・・・
薄れ行く意識の中、部下を罵る・・・

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絶対防壁によって守られている実験体制御プログラム室の中、突然それは起こった。
コンピュータ制御されている自動ドアが開き
先ほどまで動いていた同僚数名の手足が一瞬にして千切れ飛び、次の瞬間ゴトリという音と
共に目の前に居た上司の・・・首が・・・おちた

「ひっ・・ひぃっ!」

見覚えがある、失敗作の烙印を押され廃棄される予定だった実験体

「・・・エレメス=ガイル」

大丈夫だ、奴の戦闘スキルはプログラムによって封印してある。一定の距離さえ保てば・・・
ばれないように反対側の扉に向かいゆっくり移動する
入ってきた位置から奴は一歩も動いていない。このまま刺激しないで後数歩で

「ダメですよ先輩、敵前逃亡は社訓違反です♪」

突如、白衣から腕が生えた。そこは、おれの・・・心臓が・・・あった・・・ば・・しょ・・・

「ごふっ」

胸を貫いた腕が引き抜かれ、生き残っていた残りの研究員達の首がほぼ同時に転がり落ちる

「久しぶりだなエレメス。元気だったか?」

白衣についた血を他の研究員の白衣でふき取りながら男が話し掛ける
数ヶ月前に他の部署から転勤してきた新人のプログラマー
自分の同僚であるはずの研究員達の首を素手で切り落とした若い白髪の男が笑いかける

「隊長・・・」
「覚えていてくれたか。いや、一時期は記憶も操作されていたようだが」

エレメスの前に対峙しているのは所属するアサシン特機5班の隊長。
各班は12名で構成され、その指揮権を握るのがギルド内TOPである実力者達だ

「この破壊工作も隊長が?」
「ああ思っていたより簡単だったよ。流石レッケンベル本社。爆発物質の材料は山ほどある
 それに制御室は既に制圧したも同然だったからね」

隊長は背を向けコントロールパネルを操作しながら話を続けている。カシュッ
唯一開いていた扉が閉まり、外界から制御室が隔離され
先ほどまで動いていた肉片を除けば、部屋は隊長とエレメスの二人だけという事になる

「エレメス、積もる話もあるだろうが本題に入らせて貰おう」
「その前に一つ、俺がここまで来れたのも隊長の誘導ですか?」
「ああ記憶を操作しないという約束をしたらしいが、あれは嘘っぱちだ。
 お前は記憶を失っていないと思わされて、実は操作されていたようだね、
 ほら私の誘導でここまで歩いてきているじゃないか」

エレメスの顔が憎悪で歪む、契約というものは破られてはならない。アサシンにとって契約は絶対であり
契約を一方的に破棄された場合、そうなればアサシンの掟にのっとって報復だ
狸の皮を被った所長をこの手で血祭りに上げよう、八つ裂きにしてやらねば、この怒りは決して収まらぬ

「本題に入ってもいいかな?」
「・・・」
「最初にエレメス、君に確認をしておく。我々の掟についてだ。家族についての項目を復唱してくれ」

アサシンギルドに所属する時に教えられる血の契約の中の一つ「家族」。忘れるはずもない

「共に泣き、共に笑い、共に戦い、共に死ぬ、血の繋がりに関係なく己を賭けて守るべき者を、家族とする」
「んむ。基本の項目だが、私の特機5班はこれを最重要項目としている」
「だから俺も5班を希望したんです」

5班の構成員は自分だけではなく全員が家族として常に行動してきた。それが絆であり心の支えになる
隊長は満足そうに笑うと、白衣の中に隠されていた刃物を取り出し、再び真剣な顔に戻る

「今でもお前は私の家族か?」
「隊長、何を当たり前の事を・・・」
「そうだな。ただ確認したかっただけだ。・・・さてエレメス、今からお前に呪いをかける」

隊長の手にした刃物を中心に、古代文明の呪式が浮かび上がった
それは紫色の古代文字で形成され留まる事無く、常に流動的に蠢いている
神話時代より続く歴史の中で伝えられてきたアサシンの禁呪
その危険性のため、各班の隊長にしか伝えられず。その使用頻度の低さの故、エレメスでさえ初めて見る技
呪式が隊長の片手を飲み込む大きさに膨れ上がった時、隊長が口を開いた

「少し痛いぞ」

目の前に立っていた隊長が瞬時に消え去る、そして次の瞬間隊長はエレメスの背後に刃物を背中に突き立てていた
恐るべき移動速度、瞬時に相手の背後にまわりこむスキル、バックステップ

「ぐっ!」

刃物を通し、紫色の呪式がエレメスの体に少しずつ転移していく。
エレメスは歯を食いしばり体中を駆け抜けていく呪いの激痛に耐えた。
研究所に来てからの、俺の受けた屈辱を思えばこれしきの痛み、比較するだけでも野暮というものだ
30秒あったであろうか?全ての呪いがエレメスの体に浸透した時、隊長はようやく背中に突き立てていた刃物を抜いた

「我々はこれを復讐者の呪い『メメント』と呼んでいる」
「・・・それは?」
「今後、お前の記憶は脳と同時に背中に傷として刻まれる。絶対に操作される事無く消える事も無い」

それから隊長に話されたのは、これから再び皆は捕縛されるであろう事。隊長がプログラムに細工を仕掛けた事
今まで本物だと思っていた記憶が実は操作されていた事。他の実験体の過去と真実。失われた時間。
コード申請用のパスワード。隊長が新たに組み込んだプログラムの起動方法。プログラムの内容。
全てを記憶する度に背中に小さな傷が刻まれ、わずかな痛みと共に血が流れ落ちる・・・

「私の家族であるエレメス、及びその家族であるヒュッケバイン。守るべき者に手をかけた罪は重い
 アサシンギルドを敵にまわすとどうなるのか?レッケンベルの連中に思い知らせなければならぬようだ。
 殺すのは容易い、しかしそれでは面白くないので、
 奴らには恐怖の中で死んで貰えるよう禁呪を用いて一つ呪いをかけておいた」

隊長は短剣をこちらに投げさらりと次の言葉を口にする

「メメントの呪いだが一種のバグと呼ばれるものでな、氷結御神体と呼ばれる古の呪いと同じで、術者の死亡が術の完成条件となる」
「っ!」
「研究所に潜入してから、君の記憶は見せて貰った。新しい家族ができたようだな」
「隊長、しかしそれは・・・」
「家族の掟に隠された意味を理解してないわけではなかろう」

涙が止まらなかった、隊長に仕えて何年の時を過ごしたであろう?目標であり親であり兄のような存在
俺ごときが手を伸ばした所で決して届かぬ、その高みに到達した真のアサシン
隊長の手から刃物が渡される、この刃物の名は****。

「隊長・・・俺の家族の為に死んでください」
「真の家族であるエレメスの為、私はこの命を捧げよう」

刃物が隊長の体に吸いこまれる・・・痛みを伴わずに楽に死ねるよう、今までアサシンとして習得してきた全ての知識で

俺は、この手で、隊長を、殺した

教えられた指示通りに部屋に火を放ち隊長を含む全ての死体を廃へを帰還させる。これで証拠は何も残らない
それから後の事はめちゃくちゃだった。何人殺したかも数えていない。
血の涙を流し、手にした刃物で目に映る影を全て土に返し、どれだけ虐殺の時間が過ぎたかも気にならなかった

そして先に捕縛され操作された家族達の手によって、俺は再びカプセルの中へ連行された・・・


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カプセル開放による実験体の反乱から一週間。全ての実験体も回収が完了し、研究所の修復も完了した
反乱鎮圧後2週間。最初の犠牲者が出るまでは全てが順調だった
新しく研究所に配属された新人の変死体が発見されるまでは・・・

「これは毒・・・ですね」

遺体の解剖を行った医者から説明を受ける。ゴム手袋を外しながら解剖を行った老人が診断書にペンを走らせる
致死性の毒による自害。これが診断結果だった。興味本位でアサシンクロスのスキルで作成された毒に手出したか
馬鹿な奴だ・・・だが研究員の代わりはいくらでも補充できる。また新しく申請すればいいだけだ・・・

数日後、変死体の出た部署と同じ部署、プログラム課に所属していた研究員が
全員変死体で発見された。解剖結果は同じ「致死性の毒による自害」今度は合計6人・・・集団自殺か?
過労死の多いこの現場では何度も見てきた光景である。特に気にする事もない。実験は順調に進んでいるのだから・・・

総務課の方から集団自殺についての調査員が来るらしい。調査などする暇があれば研究員をよこせばいいものを。
タバコを吹かしながら報告書に目を通す「プログラム内の異常は無し」当たり前だ
総務課は何を無駄な事をしているのだろう、貴様らの邪魔な調査のせいで一日も実験が遅れてしまったじゃないか。
明日にはすぐ新しい研究員が補充されまた元通りになる。実験は全て順調に進んでいる。
そういえば最近、妻と娘に会っていない。元気にしているだろうか?・・・カシュッ

「・・・しょ、所長。お話が・・・」

開いた扉に目を移すと、青ざめた顔で研究員が呆然と立っていた。

「どうした?」
「・・・はい、先日プログラム課の調査に来た総務課の2名が・・・その、亡くなりました」

時間が止まる。様々な憶測が瞬時に頭の中を駆け巡る・・・研究員に向かい、今すべき質問は

「致死性の毒による・・・自殺・・・か?」
「・・・はい。」

エレメスだ。奴が研究員を殺害している!あいつが研究の邪魔をしているのか!

「研究所内では、エレメスが所内にまだ潜伏しているという噂が広まって、様々な課で辞表が飛び交ってっ・・ぐへっ」

五月蝿い口を黙らせる為、研究員のネクタイを引っ張り無理やり黙らせる。
エレメスが潜伏しているだと!?ありえん、オリジナルのエレメスはカプセルの中で眠っているのだから・・・
苛立ちを抑えながらカプセルの保存されている部屋へ続く通路に歩みを進める
12個のカプセルのが並んだ部屋、ここの暗号は私を含む数名しか知らない。片手で素早く暗号を打ち込み室内に入る

「所長!危険です!待ってください!」

先ほどの研究員がようやく後ろから追いついてくるが、そんな事はどうでもいい。今は確かめる事が第一だ

「ほら見ろ。エレメスはここで眠っている」

本来重役以外立ち入り禁止の領域に立ち入っている研究員に振り返り、そこに浮かぶエレメスを互いに確認する
複製品のエレメスは必ず2Fまでしか行動できないように事前にプログラムしてある
なら、エレメスの本体がここに在る以上、研究所内にエレメスが潜伏する事はありえない

「迷信だ」
「は・・はい」

自分に言い聞かせるように吐き捨てる。

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最初の変死体が発見されてから一ヶ月
エレメスの項目に関係した研究員が死に至り、社員の半分は辞表を提出し研究所を後にした。
私の周りにはもう誰も居ない・・・エレメスが研究所内に潜伏している・・・

「悪魔が・・くる・・・悪魔が・・・エレメス=ガイル・・・が・・・」

このままではいずれ所長である私の所に、エレメスが到達するであろう・・・殺される・・・悪魔に・・・
どこで何を間違えたんだ?殺される・・・いや私は殺されるわけにはいかない・・・エレメスに・・・
思い浮かぶ言葉を記録帳に書きなぐる。そうだ、殺されるわけにはいかない。全てが成功しているんだ。
成功している。殺される。成功している。殺される。成功している。殺される。成功している。殺される


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翌日、所長室で首を吊って死んでいる所長の遺体を朝出勤していた研究員が発見する
解剖結果の死因は「自殺」

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隊長の残した古代呪いの種類は「自殺因子の起動」通称デッドリーポイズン
研究所のプログラムの中に機械化されたプログラムとして組み込まれていた
自らの体内で毒を生成してしまう呪いである
通常のプログラムの中に暗号として組み込まれたそれを見分ける術はなく
それを解析する行為は呪いに繋がる・・・

所長の開発したプログラムは完璧だ、例え所長の死後であろうと生体実験プログラムは動きつづける
管理者の居なくなった無限ループは200年後、例外が発生し終わりを迎える運命の日まで
12人の実験体と共に悪夢は幾度となく繰り返される


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( ゚Д゚) <あとがき

195の人のSS「エレメスの背中の傷」「失われない記憶」「意味不明の日記はなぜエレメスを悪魔と?」
を脳内で設定して書いてみました。別人ですよ、はい。
つじつまの合わない部分もあるけど、別人が考えてるので設定同じにはできないっすよ
200年後の「ループの終わり」も一応考えているけど、脳内エロエロな設定なので文章化できない・・・
折角の195ストーリーを壊しちゃいそうだけど、勢いで投稿。


脳内→文章化時間:3時間半


※ メメント:「記憶」を意味する「メメントmemento」の第一義は「形見、思い出の品」であり
        ラテン語の原義は「忘るることなかれto remenber」


追伸:メメントという映画があるので超お勧め!
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