静かだった室内に無機質な音が響き渡った。それを聞いてカトリーヌ=ケイロンはうんざりした表情を浮かべた。
「・・・・警報・・・?・・・・・また・・・・なの?」
ここ生体工学研究所には、普段から様々なモノを求めて沢山の冒険者がやってくる。しかし今日はいつもに増して多くの冒険者達が詰め掛けた。あまりにひっきりなしに警報が鳴るので、「あぁっ!もう!なんで今日はこんなに多いのよ!!」とセシルが怒っていた。
それでも無視するわけにはいかない。無視をすれば冒険者達はここを好き勝手に荒らして回るだろう。この、箱庭を。
だから撃退する。自分達のささやかな生活を守るために。
・・・と頭ではわかっているのだが、食事の時間にまでやってくるのには腹が立った。おかげでお腹一杯御飯を食べることが出来なかった。というか全然足りない。なのでこっそり台所からクッキーを持ってきて部屋で食べていたのだが、その至福の時も途中で破られた。
「もうちょっと・・・・・だった・・・のに」
初め大皿に山のごとく載っていたクッキーは、今は平原のようにまっ平らになっていた。もう少しで食べ終わる、という時に警報が鳴ったのだ。
「・・・早く終わらせて、食べ・・・・よ」
名残惜しげにクッキーを一瞥してから準備を始める。ローブを羽織り、杖を持とうとした瞬間、シュンっという独特の音が聞こえた。すぐ、近くに。
「・・・っ!」
この音は、冒険者がよく使う、道具を使用したときの音だ。任意の場所に一瞬で移動するための道具。それを確認する前にカトリーヌは杖を握り締め。句を紡いだ。
「其は闇を打ち消す光。悠久を打ち砕く神の怒り也・・・」
体の中を流れる不定形の力が術者の句に応じて形を成していく。
「うわっ!ちょっちょっと待ってくれ!」
相手の言葉なんか聞かない。どうせ自分に対する罵詈雑言なのだから。
「天空より来たれり。雷槌よ、サンダー・・・」
「く!永久に凍えし地より来たりて我を守り給え!アイスウォール!」
「・・・ストーム」
雷の槍が相手を貫く直前、相手が地面から巨大な氷柱を作り出した。真っ直ぐに相手に襲い掛かるはずの雷は急に進路を曲げ、氷柱に向かい、それを粉々に砕いて、虚空に消えた。
「話を聞いてくれ!お、俺は君達と戦いに来たんじゃない!」
カトリーヌの魔法が消滅したのを確認すると相手は叫んだ。
「我は氷雪を詠う者の眷属な・・・・・?」
相手の言葉が偶然カトリーヌの耳に入った。戦いに来たんじゃない?それでは何をしにこんなところまで来たのだろう。少し疑問に思った。なので詠唱を中断し、しかしいつでも続きが詠えるようにしながら、言葉を返した。
「・・・・じゃあ、なんで・・・来た・・の?」
相手を見る。相手も自分と同じハイウィザードの青年のようだった。燃えるような真っ赤な髪に対照的な蒼い瞳。衣装を纏う体は華奢だが背は少し高く、研究所に一緒に住む同僚、エレメスと同じくらいだろうか。
相手はカトリーヌが話に乗ってきてくれたことが嬉しいのか、顔をほころばせながら話しを続けようとし、いきなり顔を真っ赤にした。
「来た理由・・・・・?・・・言わないと駄目かい?」
「・・・眷属也。今我が呼びかけに応え、純白の歌を皆に・・・」
「わ!わ!わっ!待って!!言う!言うから!」
再び句を紡ぎ始めたカトリーヌを見て、青年は慌てて言葉を続けた。
「えっと・・・僕、昨日、パーティで、ここに来たんだ。その時は・・その、君達と戦うためにね。」
「その時はただ名誉が欲しかったんだ。君達を倒すことができれば、それはすごいことだからね。それで、みんなでここに来て・・・パーティは壊滅した。」
そのときの事を思い出したのか、青年は体を一度、大きく震わせた。
「一瞬だったよ。僕が魔力の流れを感じたときにはもう遅かった。ストームガストで一瞬さ。・・・僕は幸い直撃はしなかったから、なんとか生き残ったんだ。それで、こんな、大きいのに澱みのない魔力の流れを持つのはどんな人なんだろうって思ってね。・・・・吹き荒れる猛吹雪の中、超然と立っている君を見たんだ。その瞬間に・・・・・その・・・」
「・・・・・・何?」
そこまで話して、青年は言葉に詰まった。まるでそこから先が話しにくい内容かのように。
その様子に少し苛ついたカトリーヌは、脅迫の意味も込めて、魔力を練り上げた。
周囲の温度が何度か下がったかのような威圧感。そのあまりの強大さに青年は回りくどくすることもできずに、真っ直ぐ言葉にした。
「あ、あなたに恋をしました!!好きです!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
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