「バーッシュッ!!!」

私は大剣に渾身の力を込め、侵入者を薙いだ。
その者の姿が消えるのを確認し、私はふぅと一息ついて壁を背に座り込む。

ここは生体研究所、その地下2階にあたる場所。
私達は日夜ここに進入してくる者を排除し続けている。
その理由は覚えていないが、なぜかそうしなければいけないと思っている。
私だけではなく、ここにいる皆もそう思っているらしい。

そう、私達にはなぜか記憶がなかった。
いつからここにいるのか…
どうしてこんなことをしているのか…
何もかもが思い出せなかった……

覚えている事もあるが、一定の時期以前のことは全く覚えていない。
まるで、その時以前の記憶が消されているかのように…
もしくは、その時生まれたかのように……

一番古くから覚えているのは、火の海となった研究所…
横たわる白服の人達…
私の手をとる男性…
そして………





ぽふっ

「なにこんな所でしょんぼりしてんのよ?」

ふと顔を上げると、にこやかに私の顔を覗き込むトリスがいた。
そして、離れた場所からエレメスがこちらを見ている。

「あ、ううん。なんでもない…」

トリスの手を頭から離すと、私は立ち上がった。
ふと見ると、エレメスはいつの間にかに姿をくらましていた。
私のことを心配して見てたのかな?
それとも、いつもみたいにトリスの事を?

「なんでもない、じゃないよ。 なんか暗そうな顔してんじゃん。」

私は少し笑ってごまかそうとしたが、やっぱりトリスにはかなわない。
長い付き合いのせいか、私が嘘が下手なのか、すぐに見破られてしまう。

「さては、またお兄様の事で悩んだりしてたのかしら?」

トリスは意地悪な笑みを浮かべつつ、私を横腹をつっつく。

「ひゃっんっ!  っちょと、トリスッ!!!」

私はバンッと幅跳びし、トリスとの間合いを取る。

「だってさー、セニアが悩むことなんてお兄様の事ぐらいしかないでしょ?」

そう言われると、なんとも返事しがたい…
確かにさっきもお兄様の事が頭に浮かんでからは………



「隙ありっ!」

むにゅっ

「ひゃあぁっ!!!」

いつの間にかトリスは私の間合いに入り、胸をわしづかみにしていた。
勿論思いっきり跳ね除けようとするが、寸でで逃げられる。

「あのさぁ、セニア。 悩んでるんだったら話ぐらいはいつでも聞いてあげるって。」

「だって、冗談ばっかり言ってまともに聞いてくれた試しがないじゃないっ!」

うーと唸る私をどーどーとなだめるトリス。
まぁ、怒っても仕方ないと思い、ペタンと座り込む。
その姿を見て、トタトタと隣まで寄ってきて座るトリス。
にまにまとした笑顔のままで…

「で、何を悩んでたのかな、子羊ちゃん。」

「それ、迷えるじゃないかな? イレイドがそう言っていたような…」

「あんまり小さい事は気にしないの。 んで、どうなの?」






私がさっき思ったのは、私達の記憶にない頃…
その時の私達はいったいどうしていたのかというものだ。
今と同じように楽しく一緒に暮らしていたのか…
それとも、敵同士で争っていたとか…
もしくは、実は私とお兄様は……




「セニア、インデュアした方がいいよ。 血が…」

トリスの一言に我に返り、ぐしぐしと鼻を拭く。
別に変な事想像してたりはしない……と思う………

「でも、トリスだってエレメスさんと仲良くしてるじゃない。 気にならない?」

「んー、うちの兄貴はマーガレッタさんにゾッコンだしねぇ。
 それに私はセニアみたいに兄貴にラブ〜って訳じゃ無いし。」

やっぱり、ちゃんと話ちゃんと聞いてくれないじゃない…
私は心の中でつぶやいて拗ねる。
そんな姿を見てか、トリスは私にぎゅっと近づいて耳元で話しかけてきた。

「それで、セニアってセイレンさんに想いは伝えてるの?」

「そっ!!!?
 そそそそそそそんなこと出来るはずが!!!!?」

あわてて首を横に振る。
そんな私をトリスはなんだかいやぁーな目でじっとり見ている…
なんだろう、この蛇ににらまれた蛙みたいな…

「あのさぁ、前にも言ったと思うけど…
 もしもお兄様ともっと仲良くなりたいって思っているんだったら…」

「でも、もし拒絶でもされたら、私生きていけないよ…」

ふぅと小さいため息をはき、私は肩をすかす。
詳しくは分からないけど、お兄様には好きな人っていうか、好みのタイプがあるみたいだけど
私が聞いても「セニアはセニアのままでいいんだよ」ってしか言ってくれないし…
やっぱり、妹としてしか見てくれていないのかな…

「セニア、あんまり悩んだりしないでさぁ、ドーンってぶつかってきなって。
 もし、ダメだったら私が慰めてあ・げ・る♪」

「遠慮しときます…」

「だってさぁ、セニアって毎晩自室で…」

!?!?!?

「ちょっ・・・・・・みっ、見てたのっ!?!?」

私は顔が真っ赤になるのを感じつつ、トリスに詰め寄った。
が、トリスは軽くバックステップで距離をとる。

「ふぅ〜〜ん、やっぱりなんかやってんだぁ。」

トリスはニヤニヤとしつつ、私を見る。
しまった、はめられたっ!!

「こらーーーーーっ、トリスーーーーーーーーっ!!!!」

私はついカッとなり抜刀してトリスとの間合いを詰めるが、速さが違う。
簡単に私の間合いから逃亡し、あっという間に曲がり角に姿を消した。
流石に追いかける気力も失せ、私はまたペタリと腰をつく。

「はぁ、やっぱりトリスなんかに相談するべきじゃなかったなぁ…」

1人でぼそりとつぶやくと、誰もいないはずの背後から声が聞こえた。

「そうでもないでござろう。
 1人で溜め込むよりも、人に話すほうがすっきりするでござるよ。」

背後の壁からスッと姿を現したエレメスさんはそう言った。
ってことは・・・・

「あの、エレメスさん?」

「どうした、セニア殿。
 何か幾分顔色が悪いようでござるが?」

私はつかんでいたサーベルにギリギリと力が入る。

「つまりは、ずっと話を聞いていらっしゃったんですよね・・・?」

「ちょwwwwセニア殿wwwww
 なんか、セイレン殿を彷彿とさせるような構えはやめるでござるwwwwwww」













 ドンッ!!!!



待ったをかけるエレメスさんを、私は全力のマグナムブレイクで吹き飛ばした。



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