ここはレッケンベル社員食堂の隣の喫茶店

ウェイター、ウェイトレスは常に常連客からの要望を把握することで、迅速にお応えできるよう
そして一時の安息の場を提供するため、日々精進努力を欠かさない店である。

そして今日も一人、その常連客しかも特別注文をされる方を招きいれるのだった。


「温かいものを、頂けます?」

この世の女神の様な笑顔で注文を承ったウェイトレスは、かしこまりました少々お待ちください、
の返答と共にできるだけ優雅に踵を返し、その笑顔に顔が赤くなるのを必死に押さえて厨房に向かった。

程なくして目の前に差し出された丼を見て、持ってきてくれたウェイトレスにも
感謝の意を忘れない。笑顔いっぱいにして伝え、ごゆっくりおくつろぎください、と言う
ウェイトレスの言葉は、もはや耳に入っていなかったマーガレッタ=ソリンであったが、
これからこの温かさを堪能できる嬉しさは何にも変えがたいのだから仕方が無いと言うところだろう。

少しの間、丼の中=うどんを堪能していると、斜め後方に他の客が座ったのが分かった。
若干緊張しつつも、それでもうどんの温かさを楽しんでいると、先ほどの客が注文を
しているのが聞こえてきた。

「…カケ、熱いのを貰える?」

その一言でマーガレッタ=ソリンは、おそらく人生でも数えるほどしかない苦境に立たされる。
…おもわずその客の注文の仕方と内容に、ふきだしてしまうのを必死に堪えるので、いっぱいいっぱい。
しかし何とか落ち着きを、冷静さを取り戻しながら自分を確認する。

”ええ、もうなんともありませんわ…私はマーガレッタ=ソリン。まったく問題ありませんわ”

そう思っている時点で動揺していることに気づかないほど、そして実は”いつも聞きなれている声”
にも気づかないほど、まだまだ動揺していたのが気づかなかったのが良かったのか悪かったのか。

「はい。カケ一丁…少々おまちください」

何とも不可思議な返事と共にウェイターは厨房に戻ったようだ。
実はその返答にふきだしそうになってしまって、思わずヘンな所からうどんがでてきてしないかしら?
等と非常に危険な考えに及んでしまったが、何とか、何とか再度復帰を果たしたマーガレッタ=ソリンは
これからの行動の選択肢に若干の考慮が必要だと、冷静さを取り戻した。たぶん。

”少し御うどんが伸びてしまうけれど、ここは持久戦が得策とみましたわ…”

どうやら、この後ろの客が帰るのを待ってから撤収(!)することに決めたマーガレッタ=ソリンは
少しずつうどんを口にしつつ、その時を待った。むろん、運ばれてくるモノの内容を考えれば、
それほど長い時間ではないハズと考えられるが、食する時間まで含むとなかなか手強そうだ、が…


程なくして後ろの客に先ほどのウェイターが戻ってきたようだった。

「お待たせいたしました。カケ、一丁です」

ゴトリと丼を置いた音が聞こえた、次には何かのキャップを外した音、そして最後に聞こえてきたのは
止まることを知らない七味を入れている音だった。

”…こんなに堂々とここで同様のメニューに対して接することができるなんて…一体何者なの?!”

等と言う驚きに対して答えは無く、聞こえるのは先ほどから切れない七味を入れる音。

”いくらなんでも入れすぎでは?!”

そう感じて思わず振り向いてしまいそうになった時、七味を入れている音は止み、
次に聞こえてきた音は、豪快に麺をすする音だった。

”!!!!!”

体感で4,5分も立たない内にその音は止み、次にはその客から声が聞こえてきた。

如何なる場所に置いても状況を冷静に観察し、対応できる力を持って然るべき
ハイプリーストであるマーガレッタ=ソリンでも、頭の中が空になりそうな、それこそ
”一緒に食べられてしまいそうな”感じすらさせられる謎の感覚には、本当に自分の
思考が止められた時間だった。

「…ごちそうさま。やっぱり寒いときにはこれに限るわね」

”???”

…やはり、思い当たる声だった。いつも近くにいる人の声だ…間違いない!

チャラリ…とここで精算らしく小銭の音が聞こえたマーガレッタが最初に行ったのは
相手を目視で確認することだった、が、そこで見たものは、

「…やほー」

と共にやる気の無いVサインで応えるカトリーヌ=ケイロンの姿だった。


ここはレッケンベル社員食堂の隣の喫茶店

ウェイター、ウェイトレスは常に常連客からの要望を把握することで、迅速にお応えできるよう
そして一時の安息の場を提供するため、日々精進努力を欠かさない店である。
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