生体研究所の朝は早い。
なぜなら…とある事情で朝食の場に遅れる事と、朝食が残っていない事は同義だからである。
故に、朝食を遺さない当人を除いて、朝に居ない者は互いに起こしあうという暗黙の了解が出来ていた。
大抵の場合は全員が問題なく一堂に会する。しかし、様々な事情によりそうで無い日もそれなりに多い日常だった。
男性陣が夜遅くまで飲み明かしている次の朝はカトリが起こして周り
マガレが夜遅く女性陣の部屋を尋ねて回った次の朝はハワードが起こして周る
そして今朝は…

「ハワードがやけにワクテカツヤツヤしてるって事は…あたしがエレメスを起こさなきゃいけないのね。」
「ごはん…もうすぐ…」
「今日も清清しくて気持ちの良いアサだなぁ。」
「ハワード…自重しろ。」
「セシルちゃん、起きなかったらこれを使って下さいませ。」
そう言ってマガレがあたしに何かを渡して来る。
「これは…紙包み?」
「ゆすっても起きない時に使って下さいね。疲れてるでしょうから、余り乱暴な事はしないようにお願いしますわ。」
「エレメスが聞いたらそれだけで飛び起きて来そうな台詞ねw」
「うふふ…飛び起きてもう一度寝る事になってしまいますわよ。」
「はぁ…まぁ行ってくるわ。あたしの分ちゃんとのけといてよ。」
「分かった。エレメスと合わせて2人分ちゃんと取っておくよ。」
「あたしの分があればエレメスのは別にいーわよ。」
「ごはん…」
「あたしの分たのんだからねっ!」
そう言ってあたしは全力で駆け出す。頼んではいるけど早くしないと朝食の危機だ。
食堂を飛び出し角を曲がる、直線を突っ切り段差を飛び越え、目標のドアを蹴り破る。
「あたしの朝食のために起きなさーい!」
「むぅ…今日は寝起き悪いわね。起きなさいっての!」
「あ、こら。もぐりこむんじゃないわよ!」
「あーもう。マガレの一言が無かったらベットごと射抜いてる所だわ…」
マガレ繋がりで渡された紙包みのことを思い出す。
「っと、そう言えば何か渡されてたんだった…目が覚める薬でも入ってるのかしら」
紙包みを開くが中身は何も無いどころかうんともすんともエスウとも言わない。
「あ…れ…?何も入って無い…?…って何か書いてある」
「セシルちゃんへ なかなか起きない殿方を目覚めさせる魔法の呪文を記しておきます。
 今日の朝ごはんのためにも頑張ってくださいね。 食事当番のマーガレッタより」
!? エレメスならともかくマガレがあたしにそんな酷い事をするだろうか?うん…するだろう。
「早く起こさないとあたしの朝食が!どうしようどうすれば…っきゃー!」
いや、多分自分の分は取っておいてくれると思う。
しかし、間違いなくあーんしてとか言われるに違いない。それだけはなんとしても避けなければ。
「こら、起きなさいエレメス!あたしのプライドが朝食でピンチなのよ!」
「全然起きる気配が無いしー!あっ、そういえばマガレのメモに魔法がどうとかって…」
あたしには魔法は仕えないが最近は魔力を封じたアイテムを作る事も可能だという。
そんな何かを期待してあたしはメモの続きに目を通した…の…だが…
「マ…マ、マ、マガレーーーーーーーーーーーーー!?」
よりにもよってこんな、こんなこれが魔法だというのだろうか。
あぁ、でも早くしないとあたしの朝食が悲惨な事になってしまう。背に腹は…代えられない。
「ア・ナ・タ…朝よ、起きてちょうだい♪」
「ぅ…効果ないじゃない。もしかして…2つ目も言わないとだめだったりするの。」
2つ目は出来れば口にしたくなかったが…ここまでくればどっちもどっちだとあたしの中のディモンが囁く。
「ねぇ、お兄ちゃん。早く起きてくれないと…セシル、泣いちゃうから…」
………
「だー!あたしは何やってるのよ!エレメスは全然起きないし!…失敗だわ、大後悔。」
「………www」
「っ!アンタ…まさか気づいてたんじゃないでしょうね…」
「セシル殿が入ってくる前から目は覚めていたでござるよ。」
「エレメス!目が覚めてたならなんで起きなかったのよ!」
「だるくて起きれなかったのもあるでござるが、セシル殿の反応が楽しかったのでござるよ。」
「このアホエレメース!」
「そう怒らないでほしいでござる。それにしてもアナタにお兄ちゃんでござるか…なかなか趣きがあって良いでござるなぁ。」
あたしはもう別に怒っていなかった。心の中は冬の湖のように静かで穏やかだった。…そう、全てを凍てつかせる冬の湖のように!
「セシル殿?」
「んっきゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
その日、閉所でのアローシャワーの威力を恐ろしさをあたしはエレメスの部屋の爆砕という形で証明した。





「はいセシルちゃん。あーん。」
「……………」
「セシルちゃん、笑って食べないとごはんおいしくないわよ?」
「…なんでなの?」
「?」
「なんで!あたしが!よだれかけをつけてマガレに食べさせられてるのよ!」
「だってセシルちゃんの服、埃まみれで洗濯してるでしょ?そっちの服を汚すわけにいかないじゃない」
「そうだけど…食べさせてもらわなくてもあたし1人で食べられるわよ。」
「瓦礫に埋もれた人は今日一日くらいおとなしくしてなさい?ね?だからはい、あーん。」
「ぅー………」





「ほらエレメス、あーん。」
「なんで拙者まで同じように食べさせられてるのでござるか。」
「そりゃ同じように瓦礫に埋まったからだろ、しかもセシルをかばったんからお前の方が酷いだろ。」
「だからといってヒザの上に座らされるのはどうかと思うでござる。」
「いいじゃねぇか2人羽織みたいなもんだ、ほら、あーん。」
「ちょ、ハワード殿、硬い物が、何か硬い物が当たってるでござる!」
「気にするなって。ほらエレメス、あーん。」
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