「くっ、数が多いっ」
「まずいぞ、このままじゃ・・・」
セイレンとハワードが押されている、最近はあまりない珍しい状況だ。
今日の冒険者たちは完全に連携が取れている。相当の猛者なのだろう。
後衛を潰そうにも、手前の騎士がうまく近づかせない動きをとり、後方からは的確な補佐・支援が飛び交う。
遠目に見えるWIZが何かを唱えだした。おそらくはSGだ。
火の力を持つセイレンがまともに食らってはおそらく立っていられないだろう。
「スピアブーm『ニューマ!!』・・・くそっ、完全に読まれてる」
くそっ、ここまでか・・・? そうセイレンの頭をよぎった瞬間

「ヒール!!ヒール!! ・・・なんとか間に合ったようですわね」
セイレンの傷が癒えていく。そしてそちらに敵の注目が行く。
「マーガレッタ!助かる!」
「くそっ、厄介なのが来た!」ああ、そうだろうな。
この冒険者たちの最大の敗因、それはマーガレッタのそばにいつもいそうなアイツのことを忘れたことだ。
「ソニックブロー!!」「!!!」
振り向いたとき、彼らが見たのは赤い飛沫を上げて倒れていくWIZの姿だった。
「っ、リザレクs『ダブルストレイフィング!!』・・・っ・・・」
「なかなかいい判断力だけど、あたしのこと忘れてたみたいね」
セシルの矢で支援も沈んだ。
「・・・仕方ない、撤退だ!」リーダーだろう騎士が号令をかける。
好き好んで戦っているわけではない生体の面々としても、そう判断してもらいたかった。
刹那。
「阿修羅覇王拳!!」「フロストダイバー!!」「キャアアアアッ!」
後ろから響く力の衝突、そして悲鳴。
振り向いた先に見えたのは、氷柱が一つ、いつも以上に魔力を高めているカトリーヌ、そして。
『マーガレッタ!!』「姫ーーー!!」倒れたマーガレッタの姿だった。


「・・・姫はまだ目覚めないでござるか?」
「ああ、まだ寝てるよ」
「大丈夫・・・生きてるから」
あれから数時間。マーガレッタはまだ眠ったままだった。
普段なら1時間もあれば起き上がれるのだが、打ち所が悪かったのだろうか。
「マーガレッタ・・・大丈夫よね? このまま寝たきりなんて・・・」
「バカ言うなって。あのマーガレッタだ、そう簡単にくたばりゃしないって」
落ち込むセシルをハワードが励ます。
「私が・・・もう少し早く気づけば・・・止められたのに・・・」
普段は無表情のカトリーヌも悲しみの色を浮かべている。
全員、言葉もない。少しの油断がマーガレッタをこんな目に遭わせてしまったのだから。
敵側の会話を聞く限りでは、モンクは独断で阿修羅を打ち込んだらしい。
モンクは怒りに任せるままに抹殺したが、結果は変わらない。
今できることは、早くマーガレッタが目を覚ますことを祈るだけだった。

どれだけの時間がすぎただろう、祈りが通じたのだろうか。
「マーガレッタが目を覚ましたぞ」セイレンがそう言いつつ部屋から出てきた。
「お、起きたか!」「・・・良かった」「姫ーーー!!」
面々がいろいろと喜びの声をあげる中、セイレンだけが浮かない顔をしていた。
「何よ、セイレン。嬉しくないなんて言うんじゃないでしょうね?」
セシルが問い詰める。こういうところだけは見逃さない性格らしい。
「いや、そんなわけないさ。だがな・・・」
セイレンはどうも歯切れが悪い。そのとき
「ごきげんよう皆様・・・あら、皆さんどうなされたの?」


「・・・・・・」全員何らかの違和感を感じたのだろう。
「姫ーーーー、拙者、心配したでござるよ!!」
エレメスは気にせず、マーガレッタに抱きつこうとする。

普段なら
  「あら、エレメスありがとう」
  とかいいつつ華麗に避けたりカウンターなりするのだが・・・

・・・普通に抱きとめちゃったよ・・・。
「うはww姫に抱かれたでござるwwww拙者感無量でござるwwwww」
「どうなされたのかしらエレメスさん、はしたなくてよ」

「・・・変」
「なんか、異常なまでに丁寧口調だな・・・」
「お嬢様お嬢様しちゃってない?」
「・・・まあ、こういうわけだ」


それからのマーガレッタは、良く言うと大人しくなった。
「ごきげんよう、セシルさん」
「え・・・あ、ご、ごきげんよう、マーガレッタ・・・」
「あらセシルさん、そんな袖がぼろぼろの服なんてはしたないですわよ」
「な、何言ってるのよ!前からずっと着てるやつじゃないの!」
「その服、少し貸していただけますか?すぐに直して差し上げますわ」
「えっ、ちょっと待って・・・ねぇ・・・」
〜〜しばらくお待ちください〜〜
「・・・すごい、まるで新品みたい」
「お気に召されたかしら?」
「べ、別にあのままでも良かったんだからね!! そう、むしろあっちのほうが!」
「え・・・私、余計なことをしてしまったのですか?」
「あ、違うの、そうじゃなくてあのままでも良かったかなって・・・でも、これも新鮮でいいわ。うん、ありがとう」
「そうですか。それはよかったですわ。それでは、ごきげんよう」
「・・・ごきげんよう・・・       ・・・でも、これじゃ完全にハンターじゃないの・・・」

「カトリーヌさん、ごきげんよう」
「・・・ごきげんよう」
「どうされましたの?何か悩んでおられるように見えますけど・・・」
「・・・大丈夫・・・」
「ですけど、私たちは仲間ですわよ? 何かあれば助け合う、それが仲間じゃありませんこと?」
「・・・セシル・・・」
「セシルさんが、どうされたんですの?」
「胸・・・気にしてる」
「そう言われれば、気にされてますわね。私の・・・その・・・胸を見て溜息をつかれたり・・・されてますし。
 でも、セシルさんの場合まだこれから育つこともあるんじゃありませんこと?
 いずれ私たち以上に素敵な女性になりますわよ」
「・・・・・・」
「あら?私、何かおかしいこと言いましたでしょうか?」
「(フルフル)そんなこと、ない」
「もし参考になれば幸いですわ。では、私はこれで・・・ごきげんよう」
「ごきげんよう・・・     ・・・やっぱり・・・変・・・」

「エレメスーーーー! 今日もいくぞーーーーーっ!!」
「まっ、待つでござるよハワード! いくらなんでも毎日は・・・」
「あら、ハワードさんにエレメスさ・・・まあっ!!」
「アッー! ・・・ひ、姫っ!!?!??!??!?」
「な、なな、ななななななななな・・・なんて不謹慎な!!」
「ん? いつもしてることじゃねえか」
「い、いつも!? いつもお二人はこんなことをされているのですか!?」
「姫、誤解でござる! 拙者はいつも姫一筋・・・」
「ふ、不純同性交遊だなんて・・・どうしてこんなことを・・・」
「そうは言うけどなあ、マーガレッタだって前セシルとかセニアちゃんとかを
 『お持ち帰りですわああああああ』とか言って」
「わ、私が!!?・・・なんて罪深いことをしてしまったのでしょう・・・
 マリア様、私はどうすればよろしいのですか? 主よ、私は・・・
 申し訳ありません、今日は少し部屋で休ませていただきますわ。ごきげんよう・・・」
『・・・ごきげんよう・・・』
「・・・なあ、やっぱりマーガレッタ、変だよな」
「で、ござるな」
「まあ、とりあえず続きだ」
「え、アッーー!!」

「あ、兄上・・・呼び出してしまって申し訳ないです」
「どうしたんだ、セニア? お前から呼び出すとは珍しい」
「はい、折り入って相談、というか・・・聞きたいことがあるのですが」
「俺が答えられる質問なら答えるが、なんだ?」
「兄上、『すーるのちかい』とはなんなのですか?」
「・・・・・・は?」
「最近、マーガレッタ様から『私とスールの誓いをしませんこと?』とよく言われるのですが、意味が分からなくて。
 兄上なら何かご存知かと思ったのですが」
「む・・・それはよく分からんな・・・」
「そうですか・・・。トリスやアルマも同じように声をかけられたらしいので、何か意味があるのかと思ったのですが」
「・・・すー・・・る? スルメ・・・?」
「あ、カトリーヌ様。『すーるのちかい』とは何なのかご存じないですか?」
「・・・姉妹の契りを交わす・・・・・・儀式・・・そう聞いた・・・」
『しまいの・・・ちぎり・・・』
「何考えてるんだあの女・・・俺のかわいいセニアに何しようとしてるんだ一体・・・」
「えっ・・・兄上、今何と?」
「ああ、いや、独り言だ。気にするな・・・にしてもマーガレッタの奴、元に戻さんとどうしようもないなこれは。
 いい意味でも、悪い意味でも」

変わってないように見えるのはキノセイだろうか・・・


「・・・というわけで、だ。どうやってマーガレッタを元に戻すかを考えたい」
そういって集まった面々。マーガレッタはまだ部屋で自らの罪に落ち込んでいるらしい。
「そうだな。なんというか、いつもと違うと調子狂うしな」
「やっぱり・・・マーガレッタは・・・普通じゃないと」
「下手にいじられるのはイヤなんだけどね。でも、あのままっていうのもね」
「姫は姫、拙者は今の姫でも(殺気を含む視線×4)・・・いや、元に戻ってもらわないと困るでござるな、うん」
「やっぱり、ショック療法しかないかねぇ。間違いなく阿修羅の一撃が原因だろうしな」
「って言っても、もう一回阿修羅の餌食にさせるわけにもいかないでしょ?」
「危険・・・」
「そうでござるな・・・何か代わりになるような衝撃・・・」

「・・・で、なんでボクなんですか? しかもなんでこんな格好を!!?」
そう叫ぶのは♀アコライト・・・の姿をしたエベシであった。
「分かりました・・・これも姉さんのためなら・・・うぅ・・・」
そう言ったエベシが泣きながら帰ってきたのはおよそ30分後のことだった。
「姉さんに・・・こっぴどくしかられました・・・
 『男の子がはしたない、そんな格好して楽しいの?』ってずっと説教されました」
これはこれで正しい反応なのだろう。

「これは、少し時間をとる必要があるな」
「そうね。夜も遅いし、今日は寝ましょう」
結局、この日は解決策を見出すことはできなかった。


翌朝。
「おはようございます、皆さん」
朝食の場に現れたのは、昨日のようなお嬢様口調ではない「普段どおりの」マーガレッタだった。
「姫、おはようござるwww」
味を占めたのだろうか、エレメスが抱きつきにかかる。
昨日はこのまま抱擁されたのだったが
「・・・ねえ、ハワード」
「言うな、もう分かってるから」
「結局、今回のもアレが原因か・・・」

「あらあらエレメス、(LA)おはようございます」
<ホーリーライト!!      ( ゚∀。)        ..*・゚・:..。.:*
⊂彡          ⊂(†⊂ )・∵.。.:*・゜  =≡゜・:..。.:*・゜≡三†
              ノ ノ

『スレの魔力かよ・・・』
吹っ飛ぶエレメスを尻目にカトリーヌがトーストをかじる中、いつもの一日が始まる。

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