週の明けた、月曜の午前8時半。騎士団前広場に、威風堂々と整列している騎士団員達の姿があった。
 見た目に反して、機能性のよい鎧一式に身を包んだ騎士達が整然と並んでいる光景は、なかなかな物である。

   セイレン 「プロテンラ第2騎士団!第一中隊、騎士第1班!集合完了!!」
   エイミー 「プロンテラ第2騎士団!第一中隊、騎士第2班!集合完了!!」
  アンドリュー「プロンテラ第2騎士団!第一中隊、騎士第3班!集合完了!!」

 プロンテラ騎士団の朝礼である。各班の長が、班の人員を掌握し騎士団長に報告する。一つの班は6人前後ほどか。
 規律を重んじる騎士団だ。事前に報告も無しに、朝礼に遅刻しようものなら、えらい目に合うのだが。
 そこらへんは新米剣士の時代に、イヤというほど叩き込まれてきたセイレン達だ。遅刻するような不届き者はいない。
 全員集合してから、騎士団長から今日の行動等を示され、騎士団の一日が始まる。

  騎士団長ヘルマン「よし、そろったな。おはよう!」
  騎士団員全員   「「「「「おはようございます!」」」」」

 騎士団長ヘルマンは、指揮官が全体を見渡せるように作った、一段高い足場の朝礼台の上に立っていた。

  騎士団長ヘルマン「今朝の時点ではまだ、第2騎士団には今週の任務は通達されていない。
           よって、午前中はいつも通りの訓練となる。以上、解散!」

 あっさりとした通達を終え、各班の長の敬礼を交わした後。騎士団長は朝礼台から降りていく。
 各班長は、各班員に向き直りそれぞれに行動を始めていった。

  アンドリュー「最近は平和ですねー。」
 
 騎士第3班の今週の班長、アンドリューがのんびりと言う。
 騎士第2班の今週の班長、エイミー。班長は週替わり当番で回ってくる。
 セイレンは騎士第1班所属だ。今週はこの三人が当番らしい。この三人は、幼い頃からの付き合いだ。

   エイミー 「そうねぇ。先週も、木曜になってやっと任務がきて、土曜ですぐ終わったしねぇ。」
   セイレン 「平和でいいじゃないか。こうやって時間ある時じゃないと訓練やってる時間ないからなぁ。」
   エイミー 「ま、そうなんだけどねw 任務あると忙しくてしょうがない。まぁ、さくっと始めちゃおう♪」
  アンドリュー「えーっと、場所もいつも通りでいいですね?」
   セイレン 「いいんじゃないか?プロンテラ西門の外で。」
   エイミー 「それじゃいこっか〜。」

 各班員を連れてプロンテラ西門から外へと出て行く。こうして騎士団の一日が始まっていくのだった。
 結局、セイレン達が所属する第一中隊に、新しい任務が通達されたのは水曜の午後。
 毎年この時期に大量発生する、アンドレの討伐に向かう剣士団の付き添い兼保護だった。
 その任務も、剣士団の奮闘のおかげか。金曜の夕方前には終えることができたのだった。
 
   セイレン 「無事終わったな。大きな怪我をした者もいなくてなによりだ。」

 セイレン達は、剣士団の後方から自分達の班を引き連れて、プロンテラに向かって歩いていた。
 各班長、セイレン・エイミー・アンドリューの後ろに班員達が、各班ごと一列に整列して行進していく。
 前にはもうプロンテラ南門が見えてきていた。

   エイミー 「毎年、夏の恒例行事みたいなもんだしね。」
  アンドリュー「今年はあと何回発生するでしょうか?」
   エイミー 「毎年2回か3回程度だし。そんなもんじゃないの〜?」
   セイレン 「だろうな。まぁ週末に食い込む前に終わったし。今週の土日はゆっくりできそうだな。」
   エイミー 「そうそう。セニアちゃんは元気してる〜?」

 妹セニアの事を聞かれて、思わず顔がほころんでしまうセイレン。いつものことなのだが。

   セイレン 「ああ、元気にしてるぞ。あんなに元気でかわいい妹はいない。うむ。」      
   エイミー 「まぁ、いまさらなんだけど。あんたほんと妹バカねぇ・・・。この、ロリコン!」
   セイレン 「・・・なっ、しっ失礼な!俺はロリコンではない!」

 セイレンとエイミーが毎度お馴染みの口論を始める。後ろに並ぶ同僚達も笑いを堪えられないようだ。

  アンドリュー「あはははwwセイレン、セニアちゃんは、あいかわらず私の事はアンド「ルー」って言ってますか?」
   セイレン 「そこはまだ直らないなぁ。ああそうそう、エイミーとアンドリューとも遊びたがっていたから、
         明日うちに来ないか?」
   エイミー 「いくいくー。アンドリューはどうする?」
  アンドリュー「そうですねー。ひさしぶりにお伺いしますか。」
   エイミー 「セニアちゃんが喜びそうな、お菓子持って行くよ。」
   セイレン 「あんまり甘すぎないようなお菓子にしてくれよ。セニアが太ってしまう。」  
   エイミー 「もう、心配性すぎよ。大丈夫だって。」
  アンドリュー「まぁまぁ二人とも。そろそろ終礼の時間ですよ。騎士団前に行きましょう。」
   セイレン 「そうだな。いこうか。」

 もう時刻は夕暮れ時であった。騎士団前で終礼が終われば、一日の勤務は終わり。
 前を行進する剣士団は、ちょうどプロンテラ南門に入っていくところだった。
 夕暮れ時に剣士達の後姿が重なって・・・。ふと自分の剣士時代が重なり、セイレンの表情が引き締まる。
 ふっと軽く上を見上げ、一瞬目を瞑り。自分の父親に心の中で語りかける。

   セイレン (・・・父上、今週もプロンテラは平和です。)

 そんな一瞬見せたセイレンの表情を、同じ先頭に立っていて幼馴染であるエイミーとアンドリューは気がついていた。
 けれども、特に何を言うわけでもなく。そのまま歩を進めていく。二人は知っているのだ。
 いや、二人だけではなく。五年前にすでに、騎士団もしくは剣士団に所属していた者は誰もが知っている。

セイレンの父親は、非常に名の知られた騎士だったが。ある戦闘で命を落とし、すでにこの世にはいない事を。

 



 ・・・五年前。当時セイレンはまだ15歳ほどだったか。まだ剣士で毎日騎士を目指し訓練している頃だった。

 ゲフェン魔術師ギルドからプロンテラ騎士団に援軍の要請があった。


  「プロンテラ騎士団へ、ゲフェン魔術師ギルドより急遽援軍の要請

     情勢は非常に切迫してきている。よって単刀直入に用件を述べようと思う。
     ゲフェンダンジョンの地下遺跡ゲフェニアの、封印再強化の為の援軍を請う。   

     我らがゲフェンの地下に存在する地下遺跡ゲフェニアの封印。
     この封印が急激に力を失った。原因はモロクの魔王を復活させようとたくらむ一派の者達だったが、
     それはすでにこちらで対処した。しかしゲフェンダンジョン3Fの封印は完全に解かれてしまい、
     ゲフェンダンジョン4Fの、ゲフェニアへと繋がるワープポイントの封印が、弱められてしまった。

     この事態に気がつき、犯人達を捕らえてより二日。
     地下遺跡ゲフェニアの強力な魔物が、4Fを通過し3Fに姿を現し始めているのだ。
     4Fの魔物達と、ゲフェニアから出てきた魔物達の攻勢を、2Fの際奥にある3Fへの入り口で
     ブラックスミスギルドと連携して食い止めているが。このままでは、遠からず押し切られてしまうだろう。

     そうなる前にゲフェンダンジョン4Fに突入し、ゲフェニアへと繋がるワープポイント封印の再強化と
     4F入り口の完全なる再封印をしなければならない。
     もし、失敗すれば。ゲフェンは廃墟と化し、ゲフェニア遺跡の魔物が溢れ、グラストヘイムの抑えがなくなり
     ミッドガッツ王国全土の危機となるであろう。急ぎ援軍を請う。
 
     ハンターギルド、アサシンギルドにも同時に要請している。」


 この大事件は、ミッドガッツ王国全土を震撼させた。もちろん国王の元にも魔術師ギルドから報告が行っており、
 ミッドガッツ国王トリスタン三世からも、直々に国内全てのギルドに勅命が発令された。

 この事件は長引いた。
 まずは魔物に押されかけていた体制を建て直し、ゲフェンダンジョン3Fを制圧。
 つづけて4Fを制圧しなければならなかったのだが、予想以上にゲフェニアから魔物が出てきていたのだった。
 
 そしてゲフェンでの騒動を察知したのか、グラストヘイムからも魔物の侵攻が始まったのだ。 
 グラストヘイムの魔物の猛攻と、ゲフェニア遺跡の強力な魔物の挟み撃ちとなり。この時が一番激戦を極めた。

 グラストヘイムの侵攻をなんとか抑えつつ、ゲフェニアの封印を優先して戦線を維持しつつ。
 なんとか4Fを制圧してゲフェニアの封印再強化が終わり、4F入り口の再封印も終わったのは。
 トリスタン三世より勅命が発令されてから、一ヶ月と二週間が経過していた。
 ゲフェンの封印が強化再封印されたことを、グラストヘイムの魔物も察知したのか。
 それからほどなく、グラストヘイムの魔物の侵攻も止まった。

 本当にグラストヘイムの侵攻が終わったのか確信が持てなかった国王は。さらに一週間、ゲフェンの警戒態勢を続けさせた。
 一週間がたち、どうやら本当に終わったようだと判断した国王から、
 ゲフェン当地の魔術師ギルド・ブラックスミスギルドとプロンテラ騎士団を残して、他のギルドは各地に戻り、
 日常業務に戻るように通達が出た。この時、すでに事件発覚から二ヶ月が経過していた。

 その三日後。
 ゲフェン郊外プロンテラ騎士団宿営地を、ダークロード自ら率いるグラストヘイム騎士団が急襲したのだ。
 
 もちろん不意打ちを食らうほど、プロンテラ騎士団が油断していた訳ではなかったのだが。
 タイミングが悪かったのか、狙われたのか。ちょうど前日から二日間の予定で、一部の剣士団が宿営地に来ていたのだ。
 実際の大規模戦における宿営地の構え方、歩哨などの立て方や、警戒の仕方等を二日交代で教育する予定だった。
 時刻も夕方。その日の教育を終了し、剣士団をゲフェンの街中へ引き上げさせようという矢先に襲ってきたのだった。

 剣士団を引き上げさせる事もままならないまま、両陣営の騎士団の激戦となった。最初こそ劣勢だったが、
 激しい剣戟の音を聞きつけて、魔術師ギルド・ブラックスミスギルドが援軍に駆けつけてからは、一気に圧倒していった。

 しかし。援軍が到着するまでの時間に、命運が尽きてしまった部隊もあった。
 セイレンの父親が中隊長を務める、プロンテラ騎士団第1中隊も、その一つだった。
 宿営地最前線の中心だったからだろうか。ダークロードを含む敵の主力部隊と真っ向から戦うハメになったのだ。
 さらに巡り合わせが悪いことに。その日、剣士団の教育を受け持ったのも、第1中隊だった。

 背後に未来の騎士団を担う若き剣士団を庇いながら、敵の主力と全力で戦った第1中隊の精鋭達。
 ダークロードや血騎士、深遠の騎士の猛攻を受け。ほぼ壊滅状態になってしまっていた。
 援軍に気がついたダークロードが、目の前の敵を今のうちに突破しようと、苛烈な攻撃を仕掛けてきたのだ。
 だが、援軍が到着するその時まで倒れずに、剣士団を守りぬいた騎士達の中に。セイレンの父親もいたのだった。
     
 セイレンは今でも思い出す。一生忘れることはない。

 目の奥に今でもこびりついて離れない。自分達の目の前に立ちはだかる騎士達の勇姿。
 ダークロードにさえも真っ向から立ち向かい自分達を守ってくれた父親の姿。
 援軍が到着し、形勢が逆転したのを見た父親が倒れ。おもわず走りよって抱えた父親は。

 まだ戦闘は終わっていないんだ、下がっていなさい、と。上司としての厳しい姿。
 セイレン、強くなれ。母とセニアを頼んだぞ・・・と。父親としての暖かい姿。

 そして。
 自分の腕の中で息を引き取った。 
 
 守ってもらうしかなかった自分の無力さを心底悔やんだ。
 強くなると誓った。



 ・・・それから二年。  
 あの時、教育の為宿営地に来ていた、一部の剣士団。
 その剣士団に所属していたほぼ全員が。近年まれに見る異例の速さと成績で騎士へと転職した。
 セイレンはその中でも抜きん出た成績を収めて騎士へと転職を果たしたのだった。

 しかしセイレンは、まだまだと思う。
 あの守ってくれた背中をいつも思い出し。訓練を積めば積むほど、父親が遠く感じていた。
 いつの日か。自分もこの世での役割を終えたとき。堂々と胸をはって父親に会えるようにがんばろう。
 母を守り。セニアを守り。二人を幸せにしよう。
 自分はあの偉大な父親に託されたのだ。自分の幸せなぞ、それからでいい・・・。その次でいい・・・。
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