「さあて、そろそろ観念してもらおうか、ホムンクルスくん?」
「……下衆が」
「冒険者なんてものは、もともと食い詰め者さ。好きに言ってくれ。好きにさせてもらうから」
 獲物を前に、薄暗い笑みを浮かべながら、狩人たちは満足げに今日の戦果を品定めしている。
傷つき倒れた、人に似て、人にあらざるもの。そして何より、破れた服よりはだけた胸を……
「あんたも楽しんだほうがいいぜ?」
 先頭に立つ騎士が、私の体を動けないように踏みつけ、槍の穂先でわずかに肌を傷つけた。
「4人もいるんだ、そのほうが双方いい気持ちになれる」
 うっすらと血がにじみ、胸から下腹にかけて一筋の赤い線が浮かび上がる。
「……」
 無論私は答えない。なぜなら、
「強情なお嬢さんだ。まあ、そのほうが嬲りがいもあるというもニャラバアッ?!」
 頼もしい仲間の気配を感じとっていたからだ。



「大丈夫か、エレメス」
「ああ、もう大丈夫でござる。手間を取らせたでござるな、ハワード」
 あっという間の出来事であった。不意打ちとはいえ、4人の熟練冒険者をいともたやすくメマー
ナイトで打ち倒してしまったのだ。その実力は、セイレン=ウィンザーに匹敵すると言えよう。
「どっこいしょ……吸うか?」
 独りで立ち上がった私を見て、ハワードは手近な瓦礫に腰掛け、煙草を差し出した。身振りで
不要の意を伝えると、ハワードは苦笑しながら火を付ける。
「そうだな、アサシンに匂いがついてるもンはヤベーわな」
 クックックッとさも可笑しそうにこちらを見つめていたが、彼の目は笑っていなかった。真意を
測りかねた私は、無言のままハワードをうながす。彼は意図を汲んで笑みを消し、一瞬口ごもり、
決意の篭ったまなざしで重々しく告げた。
「……エレメス、研究所の警備からはずれろ。お前じゃ無理だ」

 何を、言って、いるのだ?

「拙者、浅学ゆえ、貴殿の申すことが、理解しかねる」
 自らの力不足は痛感している。実力でいうなら、セイレン、ハワードはもとより、セシルにも及
ぶまい。しかし、よりにもよって彼に、唯一の理解者と思っていたハワードに告げられることにな
るなんて――
 あまりの衝撃に、心が冷えていくのを知覚した。どんどん、どんどん冷えていく。殺意すら心の
中で凍りつくほどに。
「何度でも言ってやる。お前は弱い。足手まといだ。だから――」
 呆然としている私めがけて、無造作にハワードが距離を詰める。そしてその両の手は私の背中へ回り、
「だから、俺の女になれ」
 耳元でそうやさしく告げた。



「何かと思えばハワード殿……」
 冷静さを取り戻した私は、ハワードを優しく、そしてはっきりと拒絶の意思を持って引き剥がした。
「拙者は女ではござらん」
「……男は胸が膨らんだりしねえぜ?」
 呆れたようにため息をつくハワード。視線の先は血のにじむさらしを巻かれた私の体。
「人の道から外れし時より、拙者はエレメス=ガイルでござる。それ以上でもそれ以下でもござらん」
 つい、笑みがこぼれる。お互い、人の道より外れて久しい。しかし、誰かがそばにいるということが、
どんなにかけがえのないものなのか――そのことも理解している。
「見ているでござるよ、ハワード殿。貴殿の前に、冒険者の首――特に貴殿の苦手とする魔術師の首を並べてご覧にいれよう」
 気配を断ち、周囲と同化する。ハワードは燃え尽きた煙草を地面に押し付け、にっこりと笑って言った。
「おう、お前の力を存分に示してみろ!」





後日談
「な、何様でござるかセシル殿wwwwwwwww」
「……」
「セシル殿?」
「…………」
「セーシールーどーのー?」
「…………んで……」
「ん?」
「なんであんたのほうが胸があンのよぉぉぉ!!(DSDSDSDSDS!)」
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