時折、窓の外を眺めることがある。
 研究所に備え付けられた宿舎の窓は、形だけは存在するものの絶対に開くことはない。
外的からの侵入を防ぐためだとか、色々とそういう理由を説明された記憶もあるけれど、
早い話が自分たちをここから逃さないためだろう。
 今更逃げる気なども起きないし、自らここへきたのだから、郷愁の念ももうとうに薄れ
てしまった。

 ただ、一つだけ思うのが。
 この窓の外に、まるで隔離するかのように聳え立つ灰色の壁の向こうの夕日の色は、
今も変わらずにそこにあるのだろうか。



 背後から降りかかる剣戟を、流水のように受け流し、即座に迎撃の矢を放つ。
 放たれた矢は二本。至近距離からの一撃を胸に受け倒れる騎士を見据えながら、
セシル=ディモンは腕につけていたリストバンドを、パチン、と外した。矢を射るために
腕先を強く引き締めているため、常時つけていると鬱血してしまう。

 リストバンドを外すと同時に、自分に襲い掛かってきた騎士はゆっくりと光の粒子へと
代わり、何処かへと転送されていく。おそらく、カプラ転送によって回収されていくのだ
ろう。甘言に誘われてこんなところに足を踏み込んだほうが悪いのだ、そう思ってセシル
はやれやれと、手を背中に回し大きく伸びをした。

「うーむ、相変わらずセシル殿はアレでござるなぁ」
「ひゃっ!?」

 意識も体も完璧に弛緩しきっていたのが悪かったのか、唐突に背後からかけられた声に
思わず肩をあげて驚いたセシルだったが、その独特な口調と声に怒りを露に振り返る。

「エーレーメースー。あんたねぇ、いつも隠れながら喋り始めるの辞めなさいっていって
るでしょ!?」
「いや、しかしでござるな。今しがたのセシル殿みたいにいつ襲われるかわからん以上、
こうやって隠れるしかないのでござるよ」

 それに、いつハワード殿が襲い掛かってくるやもわからんし。
 付け加えるように未だ壁際に隠れたまま喋るエレメス=ガイルを、セシルは呆れた
ようにため息をついた。
 だが、ん?、と言葉尻に突っかかるところがあり、キッとエレメスがいるであろう場
所を睨み付けた。

「って、あんたまさか今の見てた? 見ててずっと隠れてたんだ? 女の子が襲われて
るっていうのに?」
「……女の子と言えるような体つきではないでござるが―――って、ちょ、ストップ、
ストップでござるよ! 弓で撲殺はいかんでござるよ!」

 姿が見えなくても関係ないと言わんばかりに、もっていた角弓で辺りの空間をぶん
ぶんと振り薙いでいく。しかし、黙って殴られるほどエレメスもマゾではないのか、
弓先に当たった感触はない。
 ひとしきり弓を振り回して怒りは大体収まったのか、それとも弓を慣れない使い方を
して疲れたのか、セシルは肩で息をしながら見えないアサシンクロスへと話しかけた。

「で、さっきのは何なのよ」
「はて、さっきのとは何でござるか?」
「あんたが話しかけてきたときの言葉よ。アレって何よ、アレって」

 もう危険はないと判断したのか、気づけば五メートルぐらい逃げていたガイルは、
すすすっと闇から姿を現す。無駄に長く癖の多いその長髪をぽりぽりと掻きながら、
「はて、何でござったかのぅ」などと遠い目をして考え、

「あ、そうでござる。思い出したでござるよ」

 ぽん、と、手を合わせた。

「わかったから。で、何?」
「セシル殿は、やっぱり伸びをしても全然胸が強調されないでござるなぁと思った
だけでござ」
「―――――ダブルストレイピング!!」
「い、痛、今度は流石によけれないでござるよ!?」
「ダブルストレイピング! ダブルストレイピング!! ダブルストレイピング!!!」
「ちょ、ちょっと待つでござるぅうううううううううううううう!?」

 いつの間にかリストをつけなおし、矢をこちらにむけて射出してくるセシルから情け
ない声をあげて逃げ惑うエレメス。
 彼を追いかけ、セシルは怒り心頭に生体研究所の廊下を駆け始めた。
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