ここは腕試しと称して来る者が多い。ここへ訪れるもののほとんどは、特に「何か」を求めてやってくるわけではない。
通常の「狩り」呼ばれるものは、財宝や日々の生活の糧となるものを求めて行われる。

この中には警報があるわけでもなく、侵入者が来ても警備員が排除しにやってくるわけでもない。
それどころか「外」では研究職員や関係者とここへ来る者との関係は良好であるとも聞く。
禁止されているはずの区間に冒険者が侵入しようが見てみないふり。戦闘データは貴重な資料となるから。
そのかわり冒険者も、中で何があろうが、どこへも訴えることなどできない。
なぜならそこでは誰もが侵入者だから。不法侵入と言われればそれまでであるし、
何より半身が使えなくなったからなんとかしろ、など訴えるのはお門違いであり、そこまでプライドを捨てているような輩はいない。
危険を承知できているのだ。 ここへは。


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『応援、頼む』
 マーガレッタのもとへ、セイレンからの短いwisが届いた。
「苦戦してるのかしら」
『大丈夫?』
 マーガレッタの問いに応答はない。

「セイレン達のほう、苦戦してるみたいですね」
「そうなのか。セイレンは確かハワードと一緒だったはずだな。あの二人が一緒でも苦戦するとは・・・余程手ごわいのか」
 エレメスは攻撃の手を休めず呟く。
「・・・こっちはもう、私一人でも平気・・・。みんな、先行ってて」
 カトリーヌはそう言ってアイスウォールを敵と味方の間に配置し時間を稼ぐ。


 今日は侵入者が多い。最初に見つけたのはカトリーヌで、近くにいたマーガレッタ、セシル、エレメスが加わり戦闘が始まった。
 セイレンのほうでも侵入者を発見したらしく、そちらへはハワードがまわった。
 カトリーヌ組のほうは、敵の数こそ多かったが出会い頭にカトリーヌが大魔法をあびせたお陰で、優勢の戦いであり。それももうすぐ終わるであろうと思われた。

「カトリ、大丈夫そう?」
 セシルがアイスウォールとカトリーヌとの間に更にトラップを敷き詰めていく。
「うん・・・もう大丈夫。みんなは早く・・・」
「すまない。もし何かあればすぐ呼んでくれ」
「・・・ありがとう」 
「ブレッシング! 速度増加! アスムプティオ! ごめんね、あとはお願いするわね」
 カトリーヌに補助魔法をかけ、あとはお願いと頼むとカトリーヌはコクリと頷いた。

 カトリーヌの事を心配していないわけではない。
 彼女はああ見えて強く仲間想い。だからといって、無理だと思えば先に行って、など言う事もない。
 一人でやれると踏んだのでああいったのだ。ならばそれを信じるほかはない。
 
 しかし、セイレン・ハワードのコンビが援護を頼むのはあまりあることではない。
 それ故、3人は二人の元へと急ぐ。
 エレメスは姿を歪ませ空間と一体になる。セシルは自慢の脚を使って素早く駆ける。
 マーガレッタは二人に比べればかなり遅れるが、それでも急いだ。



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「この先、が3階みたいだね」
 白い法衣をまとったプリーストは目の前の階段を見て呟いた。
 ここへは、人・・・だろうか。こちらへ向かって襲い掛かる"モノ"を退けて進んできた。
 ここへきたのは特に目的があったからではない。ただ、まわりでここへよく行く者が多く、話を聞くうちに興味を覚えやってきただけだ。

「まさか・・・こんなカタチの敵がいるとはな」
 赤いマントをつけた騎士が、プリーストの思考を読んだかのように呟いた。
 彼もまた、特に目的があったからではない。いつもつるんでるプリーストに誘われたからここへきた。

「・・・登ってみましょうか」
 もう一人の赤いマントをつけた騎士が、PTメンバーをぐるりと見回しながら言った。
 プリーストの青年、騎士、紫の鷹を連れた少女、強い魔力を持つ少女。

 誰一人として疲労の色を見せるものはいない。
 いつもこの5人で色々な狩場や町へいった。
 ここへは初めてきたとはいえ、この5人なら大丈夫だろう。
 そんな事を考えながら騎士は1段目を踏みしめる。












「2階も3階も見た目はかわりナシ、と」
 最初に3階へと到着した騎士は覗き込みながら言う。壁に手をつき、キョロキョロと辺りを見回しているが、特に物音も聞こえないようだ。
「ライト、もう警戒したほうがいいよ。何が出てくるかわからない」
 ライトと呼ばれた騎士は、へぃへぃ・・・と耳にタコです、とでもいいたげにしつつもあたりの様子を伺い始めた。
 あまり警戒していないように見えるライトに忠告を促すプリースト。彼は敵がいつでてきても、味方がベストの状態で戦えるよう常に心がけている。
「そうだな。リンの言うとおりだ。しかし本当に警備も何もないとは・・・話に聞いていたとおりだとは言え、怪しいな」
 後ろからきた騎士がそれに頷きつつも、誰もが思っているであろう疑問を口にした。
「私も気になるけど・・・ここが何なのか、は調べるのは難しそうね」
 難しそうね、の言葉に同意するように彼女の頭上の鷹はピィーっと一声なき、肩にとまった。
「そうね。簡単に入れはしたけど・・・ここは立入禁止区間でもあるし、重要機密について扱ってるとも聞いた事があるわ」
 魔術師の少女はここへ来る前に少し情報収集をしたようだが、結果は思わしくなかったようだ。

「まあ何にせよ、特にこっちがわかってる情報はないんだよな。グルっと一回りして帰りますかねぇ」
 あたりを見回していたライトがそう言って、一歩踏み出した。


瞬間。


「ライト!!」

 左右からの突然の攻撃。
 前を歩いていた騎士は咄嗟に鞘で攻撃を受け流した。だが、後ろがあいてしまっている。
 まずい、くらうか?と思ったが、衝撃は来なかった。

 やはり、後ろはこの男に任せられる。
「こっちは任せろ。お前は目の前の敵を止めておけ」
「おう・・・助かる。シズ」

 ライトは冷や汗をかき、熱くなった頭をいったん冷静にしようと周りの様子を伺う。
 先ほどは気づかなかったが、自分の周りにピンク色の壁ができている。
 咄嗟にリンがセイフティーウォールをはってくれたようだ。しかし、受け流したはずの攻撃でセイフティーウォールの壁はかなり削られていた。
 シズの方へもセイフティーウォールがはってある。こちらは魔術師−−ライズがはったようだ。
 ライトのほうへリンがセイフティーウォールをはるのを見て、ほぼ同時にシズのほうへはったらしい。
 
 後ろからの攻撃が来なかったとはいえ、敵の剣は素早く重くライトにのしかかり後ろにかまっている余裕などなかった。
 
「速度増加!ブレッシング!キリエエレイソン!」
 ここでかけたほうがよい魔法を瞬時に判断し、リンは皆へ補助をかけていった。
 すぐにはがれてしまうキリエだが、敵の攻撃がそれて一瞬の隙も生まれる。そこを利用した戦術だ。
 ライズは補助にまわり、適時にセイフティーウォールを置き換え、有利な状況を作っている。
 スナイパーの少女、ルイは混戦状態の味方に当たらないように敵の気を散らす攻撃をしている。
 鷹も支持をあたえ、敵の死角から攻撃をさせる。

 ライトが対峙しているのはロードナイト。ぱっと見る程度では自分よりも細く見える。しかしこの太刀筋と剣圧は・・・並みのものではない。
 キリエのおかげでロードナイトの攻撃がそれた瞬間、隙を見つけたライトはロードナイトの左脇下へ剣を食い込ませた。
 だが装備は硬く切れた感触はなかった。せいぜい衝撃を与えられた程度だろうか。

「くっ」

 しかし、ロードナイトの顔が少し歪んだのを見て、効果はあったのだと知る。このままいけば勝てないわけではないだろう。

「セイレン!」

 ライトの後ろから声が聞こえた。どうやらシズの戦っている相手のようだ。
 シズの戦っている相手はホワイトスミスと呼ばれる職のようで、戦闘特化のようである。
 特化どころか・・・本当に人間だろうかと思えるほど斧から伝わる衝撃がすごい。キリエとセイフティーウォールでなんとかなっているが、キリエがはがれた瞬間に受ける重さは並大抵のものではない。
 だがライトが敵に衝撃を与えたお陰で、こちらのホワイトスミスも気がそれたらしい。
 

チャンス。


 その瞬間を見逃さず、シズも敵へ一発与えようとする・・・が、敵も気づき後ろへ一歩下がり、剣先がかする程度で終わってしまった。
 敵も相当な熟練者であると見え、いったん間合いをとってからは突っ込んでくるようなマネはしてこない。

「さて、どうするか・・・」

 そうつぶやいた時、ホワイトスミスが正面を切り素早く飛び込んでくる。
 咄嗟に剣を構え、それを正面から受ける。力勝負になりそうだ。
 ライトのほうをちらりと盗み見ると、あちらも同じような状況になっている。だがルイやライズの攻撃で敵もかなり消耗しているだろう。
 形勢はこちらにとって有利に思えた。


 その時、キィン!!と後ろで剣がはじかれる音がした。
 後ろでどちらかが力負けしたのだろう、と思ったがどうやら違ったようで援軍のご到着のようだ。
 ライトの目の前にアサシンクロスが現れ、ロードナイトを下がらせた。


 瞬間シズのほうも剣に衝撃が加わり剣先がずれ、ホワイトスミスの斧の刃が肩へと振り下ろされた。
 キリエのお陰で肉にめり込むことはなかったが、それでもかなりの衝撃だ。
 カツン、と音を立てて足元に落ちた何かをチラリと見やる。

「矢!?」
 そして何かが飛んでくる気配。更に何本か矢が飛んでくる。リンの瞬時のニューマとライズのセイフティーウォールで事なきを得たが、矢が来たほうに敵がいることがわかる。
 ルイがそちらを見ると廊下のはるか遠くから、こちらを狙っているスナイパーがいる事に気づく。
 あんな遠くから剣と狙って当てるとは・・・と感心しているうちに、ホワイトスミスが攻撃を繰り出してくる。

「ダブルストレイフィング!!」
 遠くの狙撃手は力をこめ、こちらへと攻撃を繰り出してくる。あたらなくても、相手の気をそらせればそれでいいのだ。

「ヒール!ブレッシング、速度増加」

 そして、どこからか回復呪文が聞こえ、ライトと対峙していたロードナイトの体に魔法がかかる。
 ロードナイトは庇い気味になっていた左脇を癒され、勢いを取り戻した。まずい、このままだとライトが二人と対峙する事となる。

 プリーストの姿を確認したライズは指示を飛ばす。
「リン! プリーストにレックスディビーナ! ルイは先にプリーストを狙って!!」
 プリーストがニューマを唱えるよりも早くリンの魔法がプリーストにかかる。
「オッケ。ディビーナかかったから打って」
 そういいながら、素早く速度減少もかける。

「任せて!私が・・・」
 ルイが弓を構え、プリーストへ狙いを定め、打つ。はずだった。
 しかしいつまでたっても矢が飛ぶ気配はない。
 カツン・・・と何かが落ちる音を聞いて、リンがルイのほうへ振り返る。

「ルイっ!?」
 振り向けば、弓を落として何かに驚いたように目を見開いたルイがいた。
「・・・あ・・・」

 順に異変に気づくPTメンバーだが、気を抜くと目の前の敵にやられてる。ルイのもとへかけよる余裕などない。
「だめだ。ルイの様子ががおかしい。シズ、ライト!あと2歩後ろへ下がれ!!」
 押される形になりつつだが、二人は少しずつ後退した。

「バジリカ」

 リンの呪文とともに、壁が生まれ小さな空間ができた。PTメンバー以外は排除される。この中へはメンバー以外誰も入ることはできない。
 今までも何度かこの魔法に助けられたことがあるメンバーは効果も熟知しており、今は敵に背を向けていいと判断した。
「ルイ、どうした?」
「大丈夫か?」
 ルイの視線はプリーストを捕らえたまま離さない。
「だめだ。一旦退却しよう」
「そうだね。ルイが心配だわ」
 リンは聖域の中でワープポータルを唱え、ライトがルイを抱きかかえ現れたポータルにのる。


「マガレ・・・ッタ・・・?」
 ライトがポータルにのる瞬間、ルイの声がシンとした研究所内にこだました。
 それに驚いたように敵のほうへ振り返るメンバー達。
「・・・! 早く、みんなポータルにのって。援軍がきたわ」
 遠くで影を見つけたライズが指示する。それを聞くと一人また一人とポータルへと入っていった。

 そして全員と聖域消えた後、ドサリと何かの音が研究所に響いた。







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 少し時を遡ること数分前。

 エレメスは救援を求める仲間の元へと急いでいた。
 キン、キィンと剣と剣の交わる音が聞こえる。二人がいるのはもうすぐそこだろう。
 エレメスは走りながら戦闘の態勢と息を整える。

 長い長い廊下を曲がったとき、目の前には交戦中のセイレンとハワードがいた。
 両人共に押されてはいるが、ハワードのほうはまだ持ちそうだ。セイレンが脇下をかばっているような体勢で剣を振り下ろし力勝負をしている。
 


ならば。

 キィン!!

「!? 何だ!?」
「っ! …エレメス! すまない、助かる」
「気にするな。少し下がっていろ」


「ちっ、仲間か」
 セイレンと騎士のぶつかり合っている剣を姿を消したまま近寄り弾いた。

 騎士を攻撃しようかとも思ったが、騎士が後ろに構えるハイプリーストとハイウィザードの防御魔法で守られているのが感じられ、エレメスは先にセイレンを下がらせることにした。
 突然の出現に騎士は一瞬怯んだかのように見えたが、すぐ体勢を立て直しこちらとの間合いをとった。
 セイレンを後ろに下がらせ、次はエレメスが騎士と対峙する。

 ハワードのほうも力勝負をしていたようだが、セシルがそちらを止めたようだ。さすが狙撃手。
 以前狙ったものははずしたことがないの、と冗談まじりに話をしたことがあるが、あながち冗談ではないようだ。
 ハイプリーストやウィザード。そしてあちらのスナイパーもこちらの援軍に驚いたようだが、セイレンとハワードにいい勝負を持っていくだけのことはある。
 既に立て直しを図り、冷静に場を凌いでいる。

「ニューマ!」

 セシルが狙っている騎士にニューマを配置し、セシルからの直接攻撃をそらさせる。だがセシルもバカではない。弓を強く弾き、騎士を吹き飛ばそうとする。
 しかし、騎士が弾かれた先にはハイウィザードが先を読んだかのようにセイフティーウォールを張っている。
 これでは負けるとは言わなくとも、戦闘が長引きこちらの不利な状況はかわらないであろう。
 この状況をどう打破するか…とエレメスが思考を巡らせたとき、後方から癒しの呪文が聞こえた。

「ヒール! 速度増加、ブレッシング」

 どうやらマーガレッタが到着したようだ。
 マーガレッタは順に支援魔法を皆にかけていこうとした、が。呪文はセイレンにかけられた1度しか聞こえてこなかった。

「レックスディビーナ」

 敵のハイプリーストがマーガレッタへ向けてレックスディビーナを唱える。そして続く速度減少の魔法。

「マーガレッタ!」
「だいじょうぶで・・・・・・っ!?」


 マーガレッタの法力は低いわけではない。むしろかなり高い方だとも思われる。
 敵のレックスディビーナは失敗するだろうと思われたがマーガレッタは声を奪われた。
 敵の法力がよほど強いかあるいは…。
 しかし、レックスディビーナは時限魔法。
 その時間も法力に比例して少なくなる。マーガレッタはすぐに解けるはず、と考えた。
 速度減少がかかっているが、その時間さえ稼げれば・・・と、周りの状況を把握しようとあたりを見回した。
 その瞬間、エレメス・セイレン・ハワードのさらに奥にいるスナイパーと目が合う。彼女はマーガレッタを狙って今まさに矢を射ろうとしていた。

「マーガレッタ!! 避けろ!」
 まずい、当てられる。


 マーガレッタは戦闘に特化しているわけではない。めったに攻撃を受けるわけではないが、急所をかわしつつも攻撃を受けヒールで自分を癒すという戦闘スタイルだ。
 しかし、速度減少がかかっており何より今は回復魔法全てが使えない。
 普段はこちらへ攻撃が流れそうになるとセイレンやエルメスが攻撃を流してくれるが、彼らとの距離はそう近くなく。セイレンがエレメスに敵を任せ、こちらへ飛び出すのが見えたが間に合わないであろう。

 衝撃を覚悟し、一瞬目を閉じてしまうマーガレッタ。
 しかし予感した衝撃は来ず、遠くでカタンという音が聞こえた。

「…?」
 不思議に思って自分を狙っていたスナイパーの方を見やると、彼女は驚いたように目を丸くさせ自分を凝視している。
 愛器とも呼べるであろう武器をその手から落として。そして不思議な感覚だが、なぜだか自分の行動がひどく遅く感じられた。
「マーガレッタ!」
 一瞬遅れてセイレンがマーガレッタへの元へと走ってきた。
 そして、セイレンもマーガレッタの視線の先へ気づく。

「…どうした?」
「いえ…なんでもないのですけれど…。彼女、私を見て驚いているのかしら?」
 なぜ打たなかったのかしら…とぼんやりとマーガレッタは呟き、自分の声が戻っていることに気づいた。

 後方のこちらへは余り意識を向けていなかったと思える相手方の騎士たちは、仲間の異変に気づいたようだ。
 スナイパーの少女に二人とも意識がいき、手元の力が弱まる。
 それを見逃さずハワードとエレメスの二人はぐっと自分の武器に力をこめ、素早く攻撃を仕掛けていく。
 それでも相手は上手に受け流し、どうしてもこちらは相手にダメージを与えることができないようだ。

 不利になる、と判断したのであろうか。プリーストは騎士達に後退を指示し自らは呪文を唱える。

「バジリカ」

 呪文を唱え終わると同時に、薄い壁が出現しエレメスとハワードは壁に阻まれた。
 近づこうとすると何か強大な力で押し戻される。

「まさか…あれを使える人がいるなんて…」
「マガレ、あれは?」
「バジリカ。今はもうほとんど使われる事がない魔法である、と文献で見たことがあるわ」

 この研究所内には巨大な図書館のようなものが備え付けてあり、そこへは地方・新旧問わずさまざまな文献が集められている。
 バジリカという魔法がある、というのは知識として知ってはいたものの呪文などは伝えられておらず。マーガレッタは結局知る機会を逃してしまっていた。

 最初こそ自分たちを拒む壁をなんとかしようと試みていたエレメスとハワードだが、崩すのは容易でないと悟った二人は一旦マーガレッタ、セイレンの元へと近寄る。
 少し遅れてセシルもやってきた。

「なんだか、様子が変じゃない?」
「そうですわね。もうこちらの事なんか忘れているみたい…」

 少し前までやりあっていた相手などまるでいなかったかのように相手PTはスナイパーの様子を伺っているようだ。

「何と言うか…よく言えば引き際をしっかりわきまえてる。悪く言えば・・・まあ、簡単に敵に背を向けちゃって・・・」
 仲間が戦闘不能になった時点で引いたのはよい。無茶をしても不利になるだけだ。
 だがその後、逃げるなり去るなんなりせずその場でこちらを無視するというのは頂けない。
「このまま出てくようなら見逃す?」
 セシルも何度か壁に向かって矢を放ったようだが、無駄だと気付いたようだ。
「それがいいな。あいつら、今までみたいにゴリ押しで勝てる相手じゃない。ちっと骨が折れそうだ」
「でも急に何だ?」
「わからないけど・・・あの子、何かをじっと見てるよね?」

 それぞれが放心状態のスナイパーの視線を追う。
 すると行き着くのはマーガレッタ。

「マガレを見てるの・・・?」
「どうやらそのようだな。見てるというより目が離せないような・・・」
「知り合い・・・じゃないよな。"外"に知り合いなんか・・・」

「私は存じませんわ・・・」
 確かにマーガレッタは彼女のことを見たことなどない。もしかしたら今まで戦ってきた中にいたのかもしれないが、そう相手が自分と関わりを持つほど対峙したことはない。

「帰るみたいだぞ。ったく、こっちには目もくれねーで」

 シン、とした研究所内にワープポータルの呪文が響く。そして現われるポータルにスナイパーを抱きあげた騎士が入ろうとしたその瞬間。


「マガレ・・・ッタ・・・?」

 こちらを凝視していた少女が呟いた。それを聞いた相手PTの全員が驚いたかのようにこちらへ振り向いた。

「なんだ?」
「マガレ、やっぱ向こうは貴方の事知ってるみたいね」
 それにあわせてこちらのメンバーもマーガレッタのほうへと視線を向ける。
 マーガレッタは自分の名前が呼ばれた瞬間頭の中が白くなるのを感じた。そして遠のく意識。

「マガレ!?」

 マーガレッタの顔は強張っている。
「どうしたの!? きゃっ」
 セシルが声を掛けた瞬間崩れるようにマーガレッタは倒れ、咄嗟にセイレンが受け止めた。
 
「・・・マガレ、どうしたの・・・?」
 ただならぬ気配を感じて途中から走ってきたのであろう。息を切らしたカトリが到着した。
「わからない。とにかく・・・医務室へ運ぼう。普通じゃない」

 セシル・ハワード・エレメスがふと振り返ったとき、さきほどまで相手と自分たちを遮っていた壁と空間と敵はいなくなっていた。
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