#プロローグ
「・・・・・・・・・サイト」
階段の上で壁に背を預け、本を読んでいたハイウィザードが唐突にそう口にする。
何も無かった空間に突如としてロードナイトの姿が浮かび上がる。
・・・だが、それは普段生体工学研究所で目撃されるロードナイトとは異なる姿だった。


#カトリ視点
「・・・セイフティーウォール」
薄紅の防護壁が襲い来る剣戟を鈴のような音色と共に受け止める。
「・・・また、来たの・・・?」
私は目を落としていた本に栞を挟み、懐へとしまう。
傍らに立てかけたおいた杖を手に取り、体をゆっくりと壁から離し、剣戟の主へ顔を向ける。
そこに予想したとおりの姿を認めた時、僅かに産まれるこの感情は安堵か否か。
「あーあ、何で隠れて近づいたのに悟られちまうかねぇ」
軽い口調でそういう彼は、既に間合いを離している。
接近戦を得意とするロードナイトが魔法を使う私に対して距離をとる事は一見して間違いのように思う。
だが彼の立つ位置はサイトが効果を現す距離より僅かに遠く、私が魔法を放っても避けられてしまうだろう。
かと言って近づけば、私が展開した防護壁を乗っ取られてしまう。それで痛い目にあった経験が私の歩を止める。
結果として互いにその場を動けず、膠着した状態に陥る。


#来訪者視点
「姿・・・」
俺の前に・・・僅かに手の届かぬ距離にいるハイウィザードが呟く。
「へ・・・・・・?」
何の事だか分からず、我ながら間抜けな声だと思うが、つい口をついて出てしまった。
「通路の角・・・見えてた・・・」
そう言われてハッとする。左右を上下に走る長い通路、その中ほどで姿を隠したのを見られていたのだ。
「あっちゃー、次からは気をつけないとなぁw」
頭を掻きつつかぶりをふる。だがSWの中の彼女は意思の読めない表情のまま動こうとしない。
・・・・・・これは少々長引きそうかもな。


#カトリ視点
彼は私を油断させようとしている・・・私はそう判断した。
ロードナイトの戦技の中には相手を弾き飛ばす物や強力な回転を加えた刺突で防御を貫通する物
手にした武器を精神力で複製し投擲する物がある事は知っている。
それらであればこの防護壁を突破する事が可能だが、それらの戦技はすべて槍でなければ使いこなせない事も私は知っている。
彼は槍も扱うが片手剣しか持ってきておらず、防護壁の中にいる限り彼は私に手を出せない。
そう、私は彼の事なら何でも知っているのだ。・・・だから私は、彼を揺さぶる事にした。
「なんで・・・女の子ばかりなの?」


#来訪者視点
「いつも・・・女の子ばかり狙って・・・もしかして・・・変な気でもあるの・・・?」
唐突な発言に頭のスイッチが切り替わりかける。だがここは戦場なのだ。色恋沙汰など似合うはずも無い。
面白い、心理戦なら受けてたってやろう。


#カトリ視点
「おいおい、俺はただ腕試しに来てるだけだぜ。変な気って一体なんなんだよw」
転生の儀を経て、全てを極めようとする者たちの間で私たちがハイリスクハイリターンな修練の相手として囁かれているのは知っている。
だから・・・その答えは予想済みだった。


#来訪者視点
「女の子に・・・それを言わせるの・・・?・・・・・・えっち。」
クソッ、妙に調子が狂う。いつもなら刹那の間に勝負が決まっているというのに。他の奴らが来たら洒落にならないぞ。


#カトリ視点
「先に言い出したのはお前さんだろう?そんな風に言われても困るぞw」
時が無常に過ぎていく。防護壁も永遠に展開できるわけじゃない。
下の通路にハワードの姿が見えた。話し声に気がついて上がってきてくれれば戦況は一変するのに。


#来訪者視点
「いつも私が・・・1人の時にばかり・・・勘ぐりたくもなる」
無表情の中に恥ずかしさや怯えが垣間見えるのは気のせいだ。
頬を染めているように見えるのはSWの色のせいだ。どちらも相手の策略なんだ。


#カトリ視点
「お前やハイプリーストが相手をするのに丁度良いんでね。他の連中の攻撃は大変でしょうがない。」
その台詞は正しいと思う。前衛同士、後衛同士ではどうしても削りあいになってしまう。
緊急回避の手段を用意して、前衛と後衛で戦うのがここでの常套手段と聞き及んでいる。


#来訪者視点
「私の魔法も・・・彼女の聖攻撃も・・・痛いと思う・・・」
彼女がクスリと笑ったように聞こえた気がした。しかしその表情は一度たりとも崩れていない。
落ち着け、落ち着くんだ。相手のペースに乗せられている。
ここで主導権を取り戻すんだ。相手が動揺するような一手を打たなければ・・・


#カトリ視点
「無粋に殴ってくるだけな奴の相手はどうも物足りなくてね。それに生憎と俺は痛いのが好きなんだ。」
エレメスと同じHENTAI・・・予想し得ない答えが頭の中を一瞬かき乱す。アドバンテージを取り戻すには・・・
戸惑いを理性で抑え付け、相手のウソを暴くのが最適だ。
そう、私は彼の事なら何 で も 知 っ て い る。


#来訪者視点
「それはウソ・・・頭の猫・・・ガラスの靴・・・シルクの服・・・格好つけてる振りのそのマントも・・・全部私への対策」
装備がことごとく見破られている。外見から分からない部分までもが。戦慄を覚えると同時に一筋の光明が見えた。
相手は俺の全てを知っているかもしれない。だがそれは・・・昨日までの俺だ。


#カトリ視点
「そこまで見破られてるならどうしようもないなぁ」
お気楽な口調とは裏腹に気迫が膨れ上がる。間違いなく何かを仕掛けてくる。
だが防護壁の有る限り彼は手を出せない。出しようが無いはずだ。


#カトリ視点
刹那、彼の姿が掻き消えると同時に壁に叩き付けられる。
あまりの衝撃に息が詰まる。杖こそ取り落としはしなかったものの体が崩れ落ちる。何があったのが理解がおいつかない。
防護壁が消えるまで多少時間はあったはず・・・そう思いながら確認しようと顔を上げた時、彼が目の前にいた。
「新しく開発されたスキルでチャージアタックって言ってな。一気に距離を詰める事が出来る
 離れていればSWは意味を成さないし、武器を選ばず使用できる。・・・例えば、素手でもだ」
杖を持たない方の手をつかまれ、目と鼻の先に彼の顔がある。私と彼が同じセルにいるのだ。
その事実に気がついた時、なぜか顔が紅潮するのが分かった。薄紅色の防護壁の中だから彼は気がつかないかもしれないのが救いだ。
ああ私は何を思っているのだろう。なんとかしてこの窮状を脱しないと。
「さぁSWも時間切れだ、チェックメイトだな」
防護壁が消えた今、自分の顔が赤いのが彼に分かってしまう。それを理解した瞬間、頭より先に体が動いていた。
必死で突き出した杖は鎧の隙間を掻い潜り、彼に僅かながら衝撃を与える。
本来、意にも介さぬはずのその打撃はなぜか手の力を緩めさせ、彼は地面にヒザをつく。
揺れる魔力を必死に紡ぐ。全力で魔術回路を編み上げる。
彼はついに地面にヒザをついたまま倒れこんでしまっていた。痛みに耐え、下腹部を押さえている。
私は彼のどこを殴ってしまったのか理解して、杖を振り下ろす寸前に躊躇してしまった。
それが恥ずかしさなのか同情なのか、それともはたまた別の感情なのかと私が自問自答しているうちに
彼はハエと呼ばれる緊急回避装置を使用して飛んで行ってしまった。
しかし、すぐ下の通路に何かが着地する音が聞こえた。
顔を覗かせると、痛みでまだ動けない様だがなんとか壁際で姿を隠れさせる彼の姿が見えた。
「ハワード・・・いる・・・?」
自分ではけっこう大きな声を出したつもりけど、この広い研究所に比べると囁きのような声がかすかに空気を震わせる。
事実、声はすぐに消え去り、静寂が辺りを支配する。もう一度呼ぼうかと考えたその時。
「おう、悪い悪い。ちょっとエレメスの奴に逃げられてな」
少し離れた小部屋からハワードが歩いてくる。
「どうした?何か有ったのか?」
私は何も言わずサイトを発動させる。真下の壁際に隠れていた、先ほど激戦を繰り広げた彼の姿が曝け出される。
痛みにこらえヒザをつき、下腹部を押さえ地面にへたれこむ彼の姿は・・・どう控えめに見てもハワード好みの体勢だと思う。


#選択肢
「AかB・・・どちらか選んで・・・」

A どちらかといえば来訪者BADEND

B どちらかといえば来訪者HAPPYEND





→A
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「彼・・・無粋なのは嫌だって・・・あと・・・痛いのが好きって・・・言ってた・・・」
エレメスに逃げられてしょぼくれていた目が途端に輝きだした。
「ここからだと・・・魔法届かないから・・・ハワードにあげる」
体を起こすこともままならない彼をハワードが担ぎ上げる。
「お前うれしい事言ってくれるじゃないの、無粋な事なんてしないからな・・・心行くまで楽しんで行ってくれ」


その日以来・・・そのロードナイトの姿は見ていない。
「うほwwwwwwwやらないかwwwwww」
と言いつつ男性陣にのみ襲い掛かり素手で全てを蹂躙していくロード内藤が現れたとかどうとか・・・・・・





→B
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「彼・・・新しい戦技使えるみたい・・・ハワード・・・教えてもらうと・・・いいと思う」
「どんなスキルなんだ?」
「遠距離から・・・一気に接近して・・・押し倒したり・・・貫いたり・・・」
全ての言葉を聞き終える前にハワードが消え去っていた。
倒れていたロードナイトの姿も見えなくなっている。

後日、互いにSWに乗ってじゃれあうロードナイトとハイウィザードの姿が生体奥地で目撃されたとの風の噂を耳にする。


肝心の生体工学研究所では・・・
「エレメス、今日こそは突き合ってもらうぞ」
「バックステップで逃げ切るでござるよw」
「今だ、俺の思いを全身で受け止めろ、チャージアッー!!」
「ちょw高速で突っ込んでくるでござああああああああああああああああああああああああっー」
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