「2階も3階も見た目はかわりナシ、と」
最初に3階へと到着した騎士は覗き込みながら言う。壁に手をつき、キョロキョロと辺りを見回しているが、特に物音も聞こえないようだ。
「ライト、もう警戒したほうがいいよ。何が出てくるかわからない」
ライトと呼ばれた騎士は、へぃへぃ・・・といいつつもあたりの様子を伺い始めた。
あまり警戒していないように見えるライトに忠告を促すプリースト。彼は敵がいつでてきても、味方がベストの状態で戦えるよう常に心がけている。
「そうだな。リンの言うとおりだ。しかし本当に警備も何もないとは・・・話に聞いていたとおりだとは言え、怪しいな」
後ろからきた騎士がそれに頷きつつも、誰もが思っているであろう疑問を口にした。
「私も気になるけど・・・ここが何なのか、は調べるのは難しそうね」
難しそうね、の言葉に同意するように彼女の頭上の鷹はピィーっと一声なき、肩にとまった。
「そうね。簡単に入れはしたけど・・・ここは立入禁止区間でもあるし、重要機密について扱ってるとも聞いた事があるわ」
魔術師の少女はここへ来る前に少し情報収集をしたようだが、結果は思わしくなかったようだ。
「まあ何にせよ、特にこっちがわかってる情報はないんだよな。グルっと一回りして帰りますかねぇ」
あたりを見回していたライトがそう言って、一歩踏み出した。
瞬間。
「ライト!!」
左右からの突然の攻撃。
前を歩いていた騎士は咄嗟に鞘で攻撃を受け流した。だが、後ろがあいてしまっている。
まずい、くらう−−−と思ったが、衝撃を覚悟したがその衝撃は来なかった。
「こっちは任せろ。お前は目の前の敵を止めておけ」
「おう・・・助かる。シズ」
ライトは冷や汗をかき、熱くなった頭をいったん冷静にしようと周りの様子を伺う。
先ほどは気づかなかったが、自分の周りにピンク色の壁ができている。
咄嗟にリンがセイフティーウォールをはってくれたようだ。しかし、受け流したはずの攻撃でセイフティーウォールの壁はかなり削られていた。
シズの方へもセイフティーウォールがはってある。こちらは魔術師−−ライズがはったようだ。
ライトのほうへリンがセイフティーウォールをはるのを見て、ほぼ同時にシズのほうへはったらしい。
後ろからの攻撃が来なかったとはいえ、敵の剣は素早く重くライトにのしかかり後ろにかまっている余裕などなかった。
「速度増加!ブレッシング!キリエエレイソン!」
ここでかけたほうがよい魔法を瞬時に判断し、リンは皆へ補助をかけていった。
すぐにはがれてしまうキリエだが、敵の攻撃がそれて一瞬の隙も生まれる。そこを利用した戦術だ。
ライズは補助にまわり、適時にセイフティーウォールを置き換え、有利な状況を作っている。
スナイパーの少女、ルイは混戦状態の味方に当たらないように敵の気を散らす攻撃をしている。
鷹も支持をあたえ、敵の死角から攻撃をさせる。
ライトが対峙しているのはロードナイト。ぱっと見る程度では自分よりも細く見える。しかしこの太刀筋と剣圧は・・・並みのものではない。
キリエのおかげでロードナイトの攻撃がそれた瞬間、隙を見つけたライトはロードナイトの左脇下へ剣を食い込ませた。
だが装備は硬く切れた感触はなかった。せいぜい衝撃を与えられた程度だろうか。
「くっ」
しかし、ロードナイトの顔が少し歪んだのを見て、効果はあったのだと知る。このままいけば勝てないわけではないだろう。
「セイレン!」
ライトの後ろから声が聞こえた。どうやらシズの戦っている相手のようだ。
シズの戦っている相手はホワイトスミスと呼ばれる職のようで、戦闘特化のようである。
特化どころか・・・本当に人間だろうかと思えるほど斧から伝わる衝撃がすごい。キリエとセイフティーウォールでなんとかなっているが、キリエがはがれた瞬間に受ける重さは並大抵のものではない。
だがライトが敵に衝撃を与えたお陰で、こちらのホワイトスミスも気がそれたらしい。
チャンス。
その瞬間を見逃さず、シズも敵へ一発与えようとする・・・が、敵も気づき後ろへ一歩下がり、剣先がかする程度で終わってしまった。
敵も相当な熟練者であると見え、いったん間合いをとってからは突っ込んでくるようなマネはしてこない。
「さて、どうするか・・・」
そうつぶやいた時、ホワイトスミスが正面を切り素早く飛び込んでくる。
咄嗟に剣を構え、それを正面から受ける。力勝負になりそうだ。
ライトのほうをちらりと盗み見ると、あちらも同じような状況になっている。だがルイやライズの攻撃で敵もかなり消耗しているだろう。
形勢はこちらにとって有利に思えた。
その時、キィン!!と後ろで剣がはじかれる音がした。
後ろでどちらかが力負けしたのだろう、と思った瞬間シズのほうも剣に衝撃が加わり剣先がずれ、ホワイトスミスの斧の刃が肩へと振り下ろされた。
キリエのお陰で肉にめり込むことはなかったが、それでもかなりの衝撃だ。
カツン、と音を立てて足元に落ちた何かをチラリと見やる。
「矢!?」
そして何かが飛んでくる気配。更に何本か矢が飛んでくる。リンの瞬時のニューマで事なきを得たが、矢が来たほうに敵がいることがわかる。
ルイがそちらを見ると廊下のはるか遠くから、こちらを狙っているスナイパーがいる事に気づく。
あんな遠くから剣と狙って当てるとは・・・と感心しているうちに、ホワイトスミスが攻撃を繰り出してくる。
「ダブルストレイフィング!!」
遠くの狙撃手は力をこめ、こちらへと攻撃を繰り出してくる。あたらなくても、相手の気をそらせればそれでいいのだ。
「ヒール」
そして、どこからか回復呪文が聞こえ、ライトと対峙していたロードナイトの体に魔法がかかる。
ロードナイトは庇い気味になっていた左脇を癒され、勢いを取り戻した。
プリーストの姿を確認したライズは指示を飛ばす。
「リン! プリーストにレックスディビーナ! ルイは先にプリーストを狙って!!」
プリーストがニューマを唱えるよりも早くリンの魔法がプリーストにかかる。
「オッケ。ディビーナかかったから打って」
「任せて!私が・・・」
ルイが弓を構え、プリーストへ狙いを定め、打つ。はずだった。
カツン・・・と何かが落ちる音を聞いて、リンがルイのほうへ振り返る。
「ルイっ!?」
振り向けば、弓を落として何かに驚いたように目を見開いたルイがいた。
「・・・あ・・・」
順に異変に気づくPTメンバーだが、気を抜くと目の前の敵にやられてしまう。ルイのもとへかけよる余裕などない。
「だめだ。ルイの様子ががおかしい。シズ、ライト!あと2歩後ろへ下がれ!!」
押される形になりつつだが、二人は少しずつ後退した。
「バジリカ」
リンの呪文とともに、壁が生まれ小さな空間ができた。PTメンバー以外は排除される。この中へはメンバー以外誰も入ることはできない。
今までも何度かこの魔法に助けられたことがあるメンバーは効果も熟知しており、今は敵に背を向けていいと判断した。
「ルイ、どうした?」
「大丈夫か?」
ルイの視線はプリーストを捕らえたまま離さない。
「だめだ。一旦退却しよう」
「そうだね。ルイが心配だわ」
リンは聖域の中でワープポータルを唱え、ライトがルイを抱きかかえ現れたポータルにのる。
「マガレ・・・ット・・・?」
ライトがポータルにのる瞬間、ルイの声がシンとした研究所内にこだました。
それに驚いたように敵のほうへ振り返るメンバー達。
「・・・あれは! 早く、みんなポータルにのって。援軍がきたわ」
遠くで影を見つけたライズが指示する。それを聞くと一人また一人とポータルへと入っていった。
そして全員と聖域消えた後、ドサリと誰かが倒れる音が研究所に響いた。
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