我が社の地下研究所に出現する、人の姿を模したモノ。
あれらは実験体の思念体(怨念)が集まったモノであり、
本来なら特定の姿を持たないと考えられる。(恐らく本来は霧のような存在になるはずである)
しかし、あれらは固有の形状を取る。
恐らくその理由は、集まった思念体のうち、最も精神力が高い個体の姿を模しているからだと思われる。
その為、現在は実験作の姿を取っているのだろう。(生き延びた冒険者等の証言と、実験作の姿は一致する)
では、何らかの原因で思念体の力が増幅された場合彼等はどうなるのだろうか。
恐らく、その際最も力を持った個体の外見へと変化するのではないかと考えることができる。
しかし、我々はそれを観察することも実験によって確認することもできない。
実に残念だ、こんな身近なところに、たった十数m下に、『実験道具』があると言うのに…

                              <レッケンベル研究所所員の研究メモより抜粋>




ドッ…
「これで全員か?」
振り向きつつ、俺は皆に問い掛ける。
「こっちはとっくに片付いてるぜ。」
「こちらも先ほど終わりました。」
皆からの返答。どうやら俺が1番遅かったようだ。
情けない…騎士として、皆を守る為、最も早く眼前に立つ敵を倒すべきだと言うのに。
「あら、貴方は1番厄介な方の足止めをしていたじゃないですか。」
「…口に、出ていたか?」
「いえ、表情から予想しただけですわ。」
にこやかに笑いながらそう言うマーガレッタ。全く、どうにも彼女には勝てる気がしないな。
「しかし…最近また侵入者が増えたようでござるな。」
エレメスが周囲を見渡してふと呟く。確かに、周りは俺達が倒した冒険者達…だったもの、が散らばっている。
「竜の住む巣が見つかった、とか話してたと思うんだけど。そこに飽きた奴等じゃない?」
「ふーむ、どうせならそっちにずっと行ってくれりゃ楽でいいんだがなぁ…」
「…でもさ、こいつらおかしくない?」
セシルがふと呟く。
「何か変なところがあるのか?」
「んー、気のせいかもしれないんだけどさ。」
と、周囲を見渡してから
「なんか、装備が…よわっちい、っていうか…」
「…なるほど。確かに、構成も拙者等と戦うには役不足のようでござるな…」
そう言われて俺も周囲を見渡してみる。
…確かに、いつもの冒険者達とは構成が違う。だが…なんだ、この感覚は…?
ふと、何かが視線に引っかかった。もう一度見るが…何もない。
「…何だ?」
「あん?おいセイレン、どうしたんだ?」
「ん、いや…」
なんだか分からないが、さっきから妙な感覚がある。人であった時の記憶…だろうか。
だが、これは俺の記憶ではない、だろう。俺には…覚えがない。
「確か、先程数人冒険者が逃げたようでござるが。」
「ああ、結局逃げきったのは一人っぽいぜ?残りは…そこで炭になってるしな。」
「…と言うことはあと一人、ですね。」
「さっさと片付けて帰りましょ。」
と、逃げた冒険者の後を追おうとした時。
「…ねぇ、二人共」
ふと、カトリーヌが女性達に呼びかける。
「これ、貴方達の…?」
「ん?わ、綺麗なイヤリング…」
「あら、本当ですねぇ…でも、私のではありませんわ。」
「ほう…凝った造りだな、よく出来てるぜ。」
装飾品をハワードが褒めるとは。かなりの出来らしいな。
「しかし、持ち主がいない…ってことは…」
「この方々の遺品、ということですわね。」
マーガレッタがそれを受け取り、近くの骸の前にしゃがみ込む。
「貴方達はどうか、私達と同じモノになりませんように…」
「………」
いつもの祈り。自ら手を下しておいて、と思うこともあるが…俺達のようには、なってほしくない。
「さて、行きましょうか?」
マーガレッタが立ち上がり、皆に戻ろうと合図をする。
俺もそれに従おう、としたその時、
その『イヤリング』が、見えた。
「…ッ!?」
その時、急に、目眩が。

「っセイレン!?」
…一瞬、意識を失ってしまったらしい。
なんだ…今のは?
「セ…セイレン?」
「ん、ああ、大丈夫だ。」
セシルの呼びかけに返事をしつつ顔を向けると…なんだその顔は。俺の顔に文句でもあるのか…?
「…?まぁいい、戻ろうぉっ!?」
歩き出そうとした途端、転んでしまった…何かに躓いたのか?だが、躓くような物はなかったはず…?
「…だ、大丈夫…?」
「ああ…大丈夫だ…」
手も差し伸べてもらえないとは…俺の日頃の行いはそこまで悪いだろうか…
と、立ちあがろうとしてふと気づく。
…俺の手足が、妙に細い。
「…ん?」
不思議に思い自分の身体を見る。
…髪が長い。そして…胸が、ある…!?
「な、何だこれはっ!?」
何故、俺が女になっている!?
「それはこっちのセリフです…セイレン、なんですよね…?」
半信半疑と言った表情のマーガレッタ。
「決まっている!…いや、外見がこれでは判らなくとも無理はないが!」
「…いや、変わる過程は見てたんだけど…何が起きたんだかわかんないわよ…」
「…同意…」
「…結局、その子はセイレン、ってことでいいのか…?」
…よもやハワードに「その子」呼ばわりされる日が来るとは思わなかった。人生わからないものだな…
「ああ、俺はセイレンだ。」
「ふむ…そりゃ困るな…」
「何がだ?」
「いや、お前が女になるとな…俺のターゲットがエレメスだけに…」「ちょwwwwおまwwww」「エレメス…これからはお前一筋だぜ…?」
…なるほど、ハワードから逃れられるのか。…なら、女の身体も悪くは…
「…うふふ。」「よくないなっ…!」
そうだった、こっちはこっちでマーガレッタが…しかもこの身体、慣れていないからか動き辛い!
「なんとか戻らないと…!」
結局餌食にされてしまう…!
「…そうだ」
あのイヤリング。あれを見た瞬間、俺は意識を失い…気づいたらこうなっていた。
なら、あのイヤリングに何か細工があったのか…!?
急いでイヤリングを拾い上げる。…確かに細工が細かく、相当な物だとわかるが…特に妙な魔力は感じない。
「くっ…どういうことだ…!?」
「…んー…ブレスじゃ治らないわね…」
「解毒…では無理でござろうなぁ…」
「…JTで…電気ショック…とか。」
「か、カトリーヌ?本気じゃないよね?ね?」
何か物騒な発言が聞こえる…本気じゃないよな?
「…考えててもどうしようもねぇ、とりあえず侵入者片付けようぜ?残り一人っつっても、奥に辿り着かれたら…面倒だ。」
…ハワードの言う通りだ。確かにここで考えていても埒が開かない。まずはさっきの一人を倒さなくては。
「よし、追おう…っと?」
歩き出そうとした途端、マーガレッタに止められる。
「セイレン、貴方は休んでいてくださいな。」
「そういうわけには…」
「その身体、どういう状態なのか全くわかりません。傷ついたりしたとき…のことが。」(それに、まだその身体に慣れていないのでしょう?)
さりげなく、囁きかけられる。…お見通しか。さすがマーガレッタ…だな。
「お見通し、か。…わかった。済まない。」
「おう、任せとけ。」
「…むぅ…セイレンが…」
…セシルから視線を感じる…だが、何故胸を見る…?
「先に戻って待っているでござるよ、すぐに片付けて戻るでござる。」
「ああ…気をつけてくれ。」

…さて。
「…しかし、本当に動き辛いな。」
どうにも…この胸が邪魔だ。
「早々に戻らないと…支障が出そうだな…」
…まぁ、色々と。ふと、さっきのマーガレッタの呟きを思い出して寒気を感じる。
やはりこのイヤリングが原因…か?もう一度それを見る…が。
「やはり…妙な魔力は感じない…か。」
だが…そうだ。俺は…、これを見たことがある。だが…いつだ?
「…く、思い出せん…!」
このイヤリングが何かの鍵になっているはずなのに…!
焦燥に駆られ、周囲を見回す。
…判っていたことだが、骸だらけ…いや…!
「誰だっ!!」
誰かが物陰に隠れている…!?こんな近くまで接近されるとは…!くそ、今の状態で勝てるのか…?
いや、やるしか…ない!
そう思い、剣を握り締めて…仕掛けようと思ったその時
「…セラ!?」
そいつが、名を呼びつつ姿を表した。高位神官…先程逃がした奴か。テレポートで裏をかかれた…か。
蘇生の呪文を詠唱される前に…と相手を見て、ふと気づく。
こいつは誰かの名前を呼んだ。その相手はここの骸のどれか、だと思ったが…こいつは骸を見ていない。
こいつは、俺を見ている。…ということは、さっきの呼びかけは俺に対して…?
そいつの顔を、俺は…見た
「っあ!?」
…頭が、痛いっ…何だ、これは、俺は、ワタシは…っ!
「…ア、ル」
口が勝手に動く。何だ、これは、何がっ…!

「…アル、バート」 …思い出した。

こいつは騎士団に居た時、相棒だった神官だ。
イヤリング。彼の誕生日に、ワタシがこのイヤリングを贈ったんだ。
…そう、ワタシ。俺、じゃあない。俺以外の、記憶。
そう、この姿の…俺を造る為の生贄にされた少女の。
「…何故、ここに来たの?」
「君が…この街で失踪したと聞いて…でも、無事でよかった…」
「…残念だけど、無事じゃないわ。ワタシはもう、人じゃない。…只の、思念体。」
「そんな馬鹿な!君はそこに…ちゃんと無事で居るじゃないか!?」
「…ええ、無事であれば、どれだけ幸せだったか。…貴方も、仲間も、殺さずに済んだ。」
「ッ…!」 彼が、その場で膝をつく。
絶望感。今更死を感じているのか。…遅すぎる。
「…ここに立ち入ったこと、死して後悔しなさい。」
そう呟き、歩み寄る。
「…悔いは、ないよ。」
「…え?」 正面に立って。
「ここに来ることで、君に会えた。思念だけであったとしても、間違いなく君に会えたんだ。…僕は、それだけでも幸せだ。」
「………そう。」 剣を、振り上げる。
「…いや…悔い、あったな…。…君と一緒に、帰りたかった。それと…こんな瞬間にしか言えないけど」 そして、剣を
『愛してる。』振り下ろす。



「…どこに隠れてるのよ、あいつ…あーもう!イラつくわね!」
「カルシウム不足でござるか?牛乳飲むといいでござるよ、胸も大きくなるでござるぉっ!?い、いきなり矢を撃たないでほしいでござる!」
「やかましいわよこのセクハラ男!」
「…でも、見つかりませんわね…あ、セイレン。」
「ああ、おかえり。何、マーガレッタ?」
「さっきの聖職者、こっちに来ていませんか?見当たらないのですけど…」
「…こっちには来てないね。帰ったんじゃない?」
「…だといいんだが…チッ、逃げきられるとはな…」
「…奥、見られてないといいんだけど…」
「それは大丈夫でござるよ、拙者の仕掛けた罠が作動してなかったでござるからな!」
「それを先に言えこのゴザルっ!!」
「ぐおおっ!DSは痛いでござるよっ!?」
「エレメス!大丈夫か!?尻に見事に刺さったぞ、治療してやる!」
「お主には見せんでござるーーっ!何をされるかわかったもんじゃないでござるっ!いや、わかりきってるでござるが!!」
騒々しい日常。これが今の俺の…ワタシの、日常。
「セイレン…?大丈夫ですか?先程から…何か…」
「いや…大丈夫だ。」
「…そうですか?では、帰りましょうか。」
「…戻って、セイレン戻す方法、探さないと…」
「ああ、大丈夫だカトリーヌ。」
「…え?」
怪訝そうなカトリーヌ。
「…戻る方法は、わかった。暫く経てば、戻るみたいだ。」
「そ、そんな簡単なことなの!?大騒ぎした私達が馬鹿みたいじゃない…」
騒がせて済まないな、セシル。
「それで戻れるのですか?確実に?」
…戻らなければいいってばかりの顔だな、マーガレッタ?
「ああ…多分、な。いや、きっと戻るさ。」
「そうなのか。そりゃよかったぜ、色々と。」
…戻らなくても…と思ってしまうじゃないか、ハワード…
「…よくわからんが、セイレンがそう確信しているなら構わんのでござろう。」
信用してくれてありがとう、エレメス。
「…まぁ、当人が言うならいいのでしょうけど…」
「まぁ、いいじゃないか。ほら、戻って休もうぜ?」
そう言いつつ、俺はいつもの場所へと歩き出す。




「…え、」
「…帰れ。」
「な…?」
「…気が、変わった。もう一度殺す気になる前に、帰れ。」
「…なん、で」
「早くしろッ!」
「ッ…!ワープポータル!」
「…それでいい。もう、お前と我等は、住む世界が違うのだから。」
「…セラ…」
「さよなら、アルバート。…もう、会えないけど」
『私も、貴方が大好きでした。』




思わぬ所から情報を得ることが出来た。偶然にも生還したハイプリーストが、過去の知人の思念体に遭遇した、との報告。
尚、記憶も保持していた模様。このハイプリーストの知人の外見、特徴は、実験体15753と同一であることが判明。
過去の知人、それも好意を抱いていた相手との接触により精神的な変化が発生し、素体となる精神が変動したのではないかと思われる。
更に情報が入手できないだろうか。繰り返し、冒険者を送り込んでみよう。…特に、実験体どもの知人を。

                               <レッケンベル研究所所員の研究メモ 追記>



適当に書き殴ったものなので、至らない点だらけで読みづらかったと思いますが、最後まで読んでくださってありがとうございます。
この小説は、急に受信した「性転換可能な言い訳」を元に構成されております。
よくわからない場合、とりあえず「想いの強さで外見が変わる」とでも…(謎

実験体15753の「彼女」は、個体「セイレン=ウィンザー」を造る際に「使用」した実験体の一人、と考えて頂ければ。
試作用のデータ収集中に、死亡してしまった一人、と設定付けています。番号は適当。

イヤリングはアクセのです。INT+2。作中でセイレンが探っている魔力は、彼の姿を変化させるような魔力なので、特に引っかかっていない、ということで。


おまけ
「おっ邪魔しまーっす。馬鹿兄貴、遊びにきたよー。」
「む、トリス。珍しいな、こっちに降りてくるなんて?」
「6人とも久しぶりだな。どうしたんだ、皆して?」
「私の用なのですが、兄上にちょっと相談が…あれ?セシル殿、兄上はどこにいらっしゃいますか?」
「あーあー、今ちょっとセイレンは具合が悪くて…ね?」
「兄上が…病気!?だ、大丈夫ですか兄上ー!?」
「…何だ、騒々しい?…って…セニ、ア…」
「…あ、兄上…なの、です、か?」
「あ、ああ。あ、いや、この姿には深いわけがあってだな!?」
「…あ」
「別に意図的なものではなくてっ…!」
「…兄上の変態いいいいいっ!」
「誤解だあああっ!」

「ラウレル…?どうした…の?顔…赤い…よ?」
「い、いや、なんでもっ…!別に何でもねぇよ!」

その後暫く、セニアからは恨みがましい視線で見られ、ラウレルから妙な気配を感じたセイレンでした。
「俺が一体何をしたぁっ!?」
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