私はたまに夢を見る。
それは姉妹の夢。
最初は二人とも楽しそうに遊んでいるのだけど、妹が成長するにつれ、お姉さんは寂しそうな表情をするようになる。
そんな夢だった。
そんな夢を見た時、私は懐かしさと同時に、寂しさを感じる。
これは私の古い記憶なのかしら?
思い出そうとしても頭痛がするだけで結局思い出すことができない。
それに、夢の中の姉妹の顔も思い出せない。
でもその表情だけは何となく感じることが出来る。
そんな、不思議な夢…
セリンに言うと、「夢ってそんなもんでしょ?」というばかりだし、
カトリーヌにいたっては、「それは…貴方の…百合願望って…フロイトが…」とまで言ってくる始末。
フロイトって誰よ?
それにカトリーヌ、私は可愛い女の子を愛でるのが好きなだけであって、別に絡みたいとかそんなんじゃないわよ?
「マーガレッタ…手の動き…怪しい…」
あら?それはごめんなさいね。

そんなやり取りをしている間に、いつの間にか夢のことは消え去っていた。
それは極々普通な日常だった。







私には妹がいた。
聖職者のくせにおてんばで、好奇心が旺盛だった、そんな妹が。
いつも自分勝手に行動し、反省することをしないような妹だったが、ある日を境にそれは変った。
反省し、努力し、次に生かすようになったのだ。
それに比例し、聖職者らしい振る舞いをするようになり、父と母は喜んだ。
だけど私はどこか、釈然としないものを感じていた。
ある日、妹がリヒタルゼンに行きたいと言い出した。
父と母は猛烈に反対した。
当然だろう。
今でこそ共和国と国交があるとは言え、当時はまだそれが無かった頃。
外の情勢も不安定で、山賊にモンスター、戦争に内乱と旅をするにはまだまだ危険が多かったのだ。
だけど妹はなんとしても行きたいと言った。
神の教えを説き、世に広めたいというのだ。
そして妹は私に両親を説得して欲しいと言ってきた。
あんなに自分勝手だった妹が、ここまで必死に頼み込むほど進みたい道なら、私は協力してあげたいと思った。
それから私は妹と一緒に両親を説得した。
その甲斐もあり、渋々ながらも両親は了承してくれた。
そして、妹は旅立った。
リヒタルゼンへ向けて…
だけど妹の後姿を見送った時、私は気がついた。
ああ、私は寂しかったのだ。
あの妹が私に頼らず、自分の道を一人で決められるほどに成長したということが…

数ヵ月後、妹がリヒタルゼンで消息を絶ったと聞いたとき、私は一人泣いた。








ここは…どこ?
さっきまで私は研究所にいたはず…
なのに気がつくと知らない街に居た。
辺りには冒険者と同じ姿の人間達。
みんな私を見て驚いている。
怖い…
ここにはセイレンが居ない。
セシルもカトリーヌもエレメスもハワードも、誰も居ない。
私一人でこれだけの人数に勝てるのかしら?
いえ、勝てるわけがないわね…
どうしようかと考えていると、突然空に声が響いた。

−うはwwwwおまえらwwww休めwww−

なんだろう、この頭を抱えたくなるような声は…
一瞬意識が遠のきかけたのを何とか戻し、周囲の状況を探る。
…誰も居ない?
さっきまであんなにたくさん人間が居たのに、今はもう誰も居ない。
まさか、さっきの声が?
ますます分からなくなる。
怖い…
誰でもいい、早く助けに来て欲しい…

ソリン「貴女、モンスターよね?」

弾かれたように後ろを向くと、そこにはイグゼニムちゃんに似た服の人間が立っていた。
その人間は私を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
でもどこか悲しそうな顔をしている。
何だろう?
どこかで見た気がする…
懐かしいような、そんな感じが…







火曜日、それはアナウンスと同時に冒険者達が宿で強制的に休暇を取らされている日。
その間に私たちは町の清掃を行う。
例えば道端に捨てられているポーションの空瓶から…

マガレ「あ…」

古木の枝で呼び出されたあげくに処理しきれず、休暇の時間になっても町に残されたモンスターの処理まで、それは多彩に渡る。
それは、今日も一緒…

シュバルツバルド共和国で作り出された負の遺産、リヒタルゼン生体研究所。
そこには私たちと同じ姿をしたモンスターが居るという。
通称、生体DOP。
貧民街の住人を誘拐し、それを素体として作られた存在。
その生体DOPの一人、いや、一匹と呼んだほうがいいのかな?
そのうちの一匹、ハイプリーストと全く同じ姿をしたモンスターがそこに居た。
私の妹と同じ顔をしたモンスターが…

気が進まない。
それはそうでしょうね。
顔どころか姿形も妹そっくりなのだから。
私の妹も、まだ生きていたらこのくらいになってたのかな?
なんでこの日に限って私しかいないのよ…
出来れば代わって欲しかったのに、私以外は新人さんだけ。
流石に新人にやらせるわけにはいかないし…
しょうがないよね…

−ごめんね−

私は心の中で彼女に謝りながら、剣を引き抜いた。
これは仕事、彼女は妹じゃない。
斬って殺して、それで終わり!
剣先を下に向け、引きずるようにして彼女に向かう。
狙うは一点、せめて楽に逝ける様に心臓を一突き!


結局、私の剣は吸い込まれるように、彼女の胸に突き刺さった。
心臓は外れたみたいだったけど、この出血なら致命傷だろう。
やっぱり、人と同じ姿をしたものを殺すのはやりきれない。
生体研究所に向かう冒険者たちはなんとも思わないのだろうか?

マガレ「……さま…」

しまった!
同じ姿をしているとはいえ、彼女はモンスターだ。
確実に息絶えたのを見届けるまで気をそらすべきじゃなかった。
ひとまず距離をとろうとするが、腕を掴まれた。
不味い!

マガレ「お姉…さま」

…お姉さま?
確かに今お姉さまと言った。
私に妹がいたように、この子にも姉が居たのだろうか…
私に懐いていた妹、おてんばだった妹、その子に良く似たこの子にも…

マガレ「ソリ…姉さ…ま」

まさか…






彼女の剣は私に突き刺さった。
心臓は外れたみたいだけど、どのみち助からないわね。
体中から力が抜けていくのが分かる。
あ〜あ、ついてないなぁ。
どうしてこうなっちゃったんだろう…
何がいけなかったのかな?
ねぇ、お姉さま…


今、なんて言った?
お姉さま…

誰の?
私の…

誰が?
ソリンお姉さまが…

ソリンお姉さま

姉…様…?








私が…
私が殺してしまった…
実の妹を…
私が…
嫌…嘘…嘘だ…
どうして!?

妹はリヒタルゼンで消息を絶った

なんで!?

リヒタルゼン生体研究所で作られた存在、通称生体DOP

あ…あああ…

貧民街の住人を誘拐し、それを素体として作られた存在

私…私…!
いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!




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