行かないで。


泥のような重たい闇の中で懸命に手を伸ばす。でも私の体は沈んでいくばかり。
また遠ざかって消えていく光。追いかけようとしても、掴もうとしても、私は泥の中から抜け出すことが出来なかった。
今度は、セシルがどこかで泣いているような気がした。やがてその気配もまた弱くなり、遠ざかり・・・・

・・・・そして、消えていった。


ハワード、カトリ、セイレン・・・・そして、セシル。
消えていった光はきっと、夢なんかじゃない。・・・なのに、私はこんなところで。

目を覚まさなければ。もがけばもがく程、意識は沈んでいくような気がした。
私は、ここにいるのに。力尽きて消えていく仲間の命を繋ぎとめることも、呼びもどすこともできない。
祈っても、叫んでも、何も届かない。みんな消えてしまう。みんな死んでしまう。
私はここにいるのに。私はそれを感じ取っているのに。・・・・・何も、できない。


・・・・ああ、これはまるで・・・・


まるで、これはあの時のよう。私が初めてグラストヘイムに行った、あの時の。
次々と仲間が倒れていくのを、何もできず震えながら見ているしかなかった、あの時に似ている。

・・・そうだ。

この闇の中から、届かせることが出来るとしたら。
今、みんなを呼び戻せるとしたら、きっとあの聖句以外にはない。

でも使えば私は死んでしまう。そして今回ばかりは・・・・私はそのまま目を覚ます事はないのかもしれない。
もうイレンドのそばにいてあげることができなくなるかもしれない。もしそうなったら、あの子には辛い思いをさせてしまう。
・・・・それでもきっと、このままではこのまどろみから抜け出せず、死を待つだけだと思うから。


唱えよう。あの聖句を。


イレンド・・・もし戻れなくても、姉さんを許してね。一緒にいられなくても、きっと貴方を見守っているから。
貴方は姉さんがいなくてもきっと大丈夫。ちょっと頼りなさそうに見えるけど、本当はとても強い子だから。

そしてエレメス・・・もし、私の祈りが届かなかった時は、どうかみんなを・・・そして弟たちをお願いしますね。



・・・・太初より最も貴く神聖な方よ あなたへ切にお祈りいたします

あなたの慈悲で、私達をお助けください。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 





全員を渡り廊下の西側、階段付近の壁の向こうに移動させ、もう一度このコースにぶつかる敵がいないか調べてきた。
結果は問題なし。最初の高台での戦闘とさっきの戦いで、解放された"コピー"は大体始末していたようだ。
疲れるのでクロークを解き、壁に手を添えながら階段を上がる。・・・・まったく、たかが階段を登るのが辛く感じるとは。
すぐそこが最後の折り返し。早く戻ってマーガレッタの様子を見てやらなければ。


「・・・これは・・・」


折り返しに差し掛かると、急に空気がざわめいた。何か大きな力の動きを感じる。
・・・・これは階段の上。マーガレッタたちを運んでおいた場所からのようだ。
階段を駆け上がると、小さな呟きが聞こえた。・・・・マーガレッタの声だ。目を覚ましたのか?


(マーガレッタ!)


階段を上りきり、壁の向こうに回る。すると俺の目にさざ波のような光が映った。
それは横たわるマーガレッタを中心に広がる、玲瓏たる聖なる光。


「・・・なたが・・・う・・・な・・・った・・・・・・に・・・」


マーガレッタは聖句を紡いでいた。途切れ途切れに、うわごとのように、しかし思いを込めて。
徐々に光は強く溢れ、マーガレッタの傍に横たわる4人の亡骸を包んでゆく。
マーガレッタが何を唱えていたのか俺にはよく分からなかった。だが最後の言葉だけは、はっきりと聞いた。



「レディム プティオ」



息絶えた4人の上に、天使が舞い降りた。



「・・・・マーガレッタ・・・・」



レディムプティオ。窮地に陥った時、一度に仲間全員を蘇らせる自己犠牲の秘蹟。
・・・もし、はっきり意識を取り戻せていたならこれは使わなかっただろう。戻りきらない意識の中で、夢中で唱えたのか・・・・
やがて聖なる光は徐々に薄らぎ、復活を司る天使は還ってゆく。そして――





――そして誰も、起き上がりはしなかった。





「・・・・何・・・・だと・・・・?」



バカな。ありえない。

直接の死因が病死や自然死でない限り、少なくとも複雑で重要な器官を破壊し尽されない限り法術による復活は可能なはずだ。
マーガレッタの祈りは届いていたはずだ。完璧だったはずだ。なのに何故誰も起き上がらない?
勿論俺たちは不死者の属性など帯びてはいない。じゃあ、何故だ?一体どうなってる?


「どういうことだ・・・・?」


分からない。何故こんなことが起こる?これもあの虫のせいだというのか?
どういう事なのか見当がつかない。あの虫が媒介した病気だったとして、その進行によって死んだ訳でもないのに。
こんな事はあるはずがないのだ。一体何が起こっている?


「・・・・・・・・・」


ふざけるな。こんな事があってたまるか。こんな理不尽な事があってたまるか。
何かあるはずだ。このまま終わらせてなるものか。絶対に何かあるはずだ。


(・・・まだだ。)


・・・・そうだ。今は悲しむ時でも、絶望する時でもない。そんなものは全てが終わった後でいい。
足掻け。今俺にできる全てを、最後までやり通せ。獄長からもまだ情報を引き出していないし、ヒュッケ達にも追いつかなければ。
まだ守るべきものはある。まだ何か手が残されている可能性もある。だから――



「・・・後のことは、俺に任せろ。」



何がどうなっているのか分からないが、これだけは確かだ。俺はまだ生きている。
俺たちのうち5人が倒れ、ヒュッケ達の様子も分からないが、まだ俺がいる。まだ戦える。
状況が絶望的なら打開するまでだ。最後の1人が倒れるまで終わりはしないと言う事を、奴らに教えてやろう。
遠い天井を睨む。ロープは半ばで切られ、天井の大穴の縁では敵の一団が銃を構えて警戒している。
だが俺にロープなど必要ない。そんな物がなくても、俺はまだ這い上がれる。

ハワードから貰った足場の短剣が、すぐそこの壁から天井へと続いているのだから。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 






「退くぞ!!」


撒かれた虫は片付けて、敵のラインも少しずつ崩壊していった。
最後に残った敵はグレネード弾でバリケードごと階段前を爆破してゲートの向こうへと退いてゆく。
追い縋ろうとしたが、一瞬、足から力が抜けた。よろめいて立ち止まり、私は皆の方を振り返った。


「皆・・・無事か?」

「セニア、ラウレルとカヴァクが・・・」

「!!」


ラウレルとカヴァクは倒れ、イレンドに介抱されていた。目立った傷はないけれど、2人とも顔が真っ青だ。
ヒュッケも気が抜けたように座り込み、アルマとイレンドも辛そうだった。

・・・・皆、症状が進んでいる。私が戦闘中に取り乱していなければ、ここまで酷くはならなかったかもしれないのに。


「早くワクチンを手に入れないと、僕のできる治療じゃこれ以上は・・・」

「・・・分かった。私はカヴァクをおぶっていくから、イレンドはラウレルを。」

「いいよ。カヴァクはあたしが連れてくから、先頭お願い。」


そう言ってアルマはひと息つき、イレンドのところへ歩いていった。
カートがあれば楽なんだけどなぁ、などとぼやきつつカヴァクを抱き起こして軽々と背負ってしまう。


「しょ・・・っ、と。男の子って軽そうに見えても結構重いね。」

「・・・アルマ・・・」

「いいから、寝てていいよ。荷物運びなら得意だしね。」

「はは・・・・」


苦笑するカヴァクは、まだ少し話すくらいの元気は残っているようだった。
でもラウレルは・・・・もう毒づく気力も残っていない。蒼白を通り越して土気色の顔で、ぐったりしている。
その顔を見てざわりと胸が騒ぐ。もし・・・・もしワクチンを手に入れるのが間に合わなかったら。
そしてもしこの先・・・・・



「突入ーーーッ!!!」



ゲートの向こうから号令が響く。門が開き、殺到する足音はさっきの2倍か3倍か。
効果は十分と判断したか、それとも本当に全て出し尽くしたのか。散布器ではなく全員が斧か銃を携えて。
後ろを振り返る。カヴァクとラウレルは倒れ、アルマとイレンドは2人を背負い、ふらりと立ち上がるヒュッケの足元はおぼつかない。
目の前には赤い雪崩。開いたゲートから吐き出されるように階段を駆け下りる。


「何て数・・・」

「こんな時に・・・!」


・・・・私は弱虫だった。でもひたすら剣を振るって、強くなったつもりだった。
それでも結局、私はまだ弱虫だった。だから皆に助けられてやっとここにいる。
皆を守るどころか、迷惑をかけてしまっていた。本当の強さなんて、私にはまだまだ遠い。

・・・・でも。


「私に・・・・」


でもそんな私に、兄上は言った。
強くあれ、と心から思い続ければ。その思いはいつか本当の強さに繋がるのだ、と。

だから。


「私に続けっ!!」


だから切り拓くんだ。私がこの剣で、皆が往く道を。生き残る道を。
もしもの事を考えて、後ろを向いている暇なんてない。
私は剣士。先頭を征き、道を切り拓くのが務め。

・・・・そうでしょう?兄上。


「セニア・・・!!」


階段の終わりに差し掛かった敵の先頭をマグナムブレイクで吹っ飛ばし、殺到する敵を斬り払う。
降り注ぐ弾丸の雨。振り下ろされる無数の斧。それでも傷ついた仲間たちは、私の後ろに居てくれる。
だから守るんだ。敵の大群に飲み込まれそうでも、押し潰されてしまいそうでも。
斧が鎧を歪めても、銃弾が体を貫いても、力尽きて死ぬその時まで私は止まらない。


「そこをどけッ!!」


撃たれた傷の痛みを堪え、駆け下りる敵の勢いに押し流されないように、私は切っ先を払ってもう一歩前へと踏み込んだ。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 





中央に開いた大穴を監視する敵に見つからないよう、俺は素早く足場を天井までよじ登った。
この時点でもう息があがっていた。滴るほどに滲んでくる脂汗は、拭っても拭ってもキリがない。
だが当然休んでいるヒマなどない。最後の足場の上に立ち、天井に刃を突きたてて、呼吸を整えた。

目指す方向は――中央ではなく外縁。

実は天井に開いている穴は1つではない。爆発で崩落して出来た穴が、この広い空間の上には幾つかあるのだ。
敵の意識がそこに向く前にそこまで行き、獄長を回収して今度こそ情報を聞き出し、そして――


(ヒュッケ・・・無事でいてくれ。)


体を持ち上げ、靴に仕込んだ刃を天井に突き立てる。目指す穴まで約30mといったところだろうか。
真下に広がる奈落は4階の廃棄物処理施設まで通じている。もし途中で意識が飛ぶようなことがあれば命はない。
集中して一歩を踏み出すと、奈落の底から静かに囁く気流が、滲む脂汗を撫でて吹き抜けていった。
意識が撓む前に渡り切らなければ。"発作"は集中力を使うような動きをすればするほど起こりやすいのだから。
逸らず、怯まず、確実に。意識にかかる霞を払いながら、天井のはずれに開いた小さな穴から漏れる光へ少しずつ近づいてゆく。
コンクリートの天井に短剣が突き刺さる乾いた音を、遠くから聞こえる敵の話し声の波に紛れさせて。


(あと少し・・・)


上の敵の気配に大きな動きはない。残りの距離は――約2m。
あと一歩だ。右手を前に伸ばすと、握った短剣の刃はうっすらと上階の光を映し――



その直後、視界が暗転した。





「ぐ・・・・・」


一瞬の断絶の後、目に映ったのは深淵の中へ消えていく光。不自然にふらりと揺れて闇に飲まれていったそれは――
それは俺が落とした右手の短剣。揺れていたのは光ではなく、宙吊りになった俺の方だった。


「・・・ッ!!!」


咄嗟に天井に刺さった短剣へと手を伸ばすと、その勢いで足元にぴきりと走る不穏な音。
亀裂の間で緩んだ刃先がぐらりと抜けて、柄に届きかけた左手が空を掴んだ。
包み込むような闇の底から吹く冷たい空気の流れが、誘うように耳元を撫でる。


(まだだ・・・・ッ!!)


間一髪、振るった右手が柄の端にかかる。ぎりぎり指3本、それでも握り込んで踏み止まった。
天井から抜けた片足の刃を別の場所に蹴り込んで、俺は何とか体勢を立て直すことに成功した。
・・・・危なかった。ほっと一息ついて呼吸を整え、再び天井の向こうの気配に耳を澄ます。


(・・・気づかれた!)


足音が5つ、こちらに向かって突進してくる。落とした短剣が闇の中で反射したか、今の物音を聞かれたか。
一気に体を前に進めて穴の縁に短剣を突きこみ、そして手をかけるその瞬間、敵が叫び穴の上に影がさした。


「ハンマーフォール!!」


文字通り落下する速度で叩きつけられる大金槌。しかしそれを眼下に見ながら宙に身を翻す。
影に気づいてこちらを振り仰ぐその表情は絶望。だがそれでも生存本能は抗った。その男は咄嗟に盾をかざし、首を狙う刃の軌道を塞ごうとする。
・・・が、遅い。鋼の音は響かずに、血華が閃き盾を持つ手はだらりと下がる。無防備になった男の心臓を掻き回し、骸を投げ捨てて、駆ける。


「な・・・っ!?」

「・・・・うっ!」


出会い頭の1人を薙ぎ切り、敵の中央に飛び込む。死体に釘付けになった者の目には恐怖。俺の動きに反応した者の目には絶望。
不意を突かれた敵は、ただそれだけで混乱と恐怖に動きが硬直し、戦意を失っていた。


――下らない。


一瞬、怒りにも似た感情が浮かび、俺はそれをすぐに打ち消した。・・・・それこそ、下らないことだ。
相手がどんな有象無象の集まりだろうと、現に俺たちは追い込まれており、そして俺はその状況を打開しなければならない。
今、必要な事はそれだけだ。さっさと目の前の木偶を片付けて、獄長から必要な情報を搾り出す事だけ考えていればいい。
そのまま、端から刈り取ってゆく。ともすれば制動を失いそうな体を必死に立て直しながら、それでも連中はそんな俺の異変に気づくそぶりもなく死んでいった。


まったく、下らない。


まだやるべき事も、調べなければならない事も幾つもあるというのに、もうそろそろ俺の体も持ちそうになかった。
下で倒してきたコピー供ですら、今戦えば倒せるかどうか分からないほどだ。まともに動けるのも、あとどのくらいだろうか?
弄した策も全て破れ、この様だ。不慮の事故が連続したとは言え、何か対策や方法があったはずなのに。


「くそ・・・っ」


急激に動いた反動で脱力して、壁に縋るように歩き出す。すぐそこにある実験室の扉が恐ろしく遠いように感じた。
獄長は、あの中の棚に押し込めてある。試薬や標本の独特の匂いがたちこめる実験室の奥へと進み、棚の扉を開けると奴はまだ気を失ったままだった。


「起きろ。」

「げぁっ!?」


蹴り起こして髪を掴んで引きずり出し、鼻先に刃を突きつける。冷静な判断力を取り戻される前に、カタをつけなければ。
もう体は今にも溶け出しそうに重く、感覚は鈍り果て、まともに動ける時間もそう長くはなさそうだった。時間稼ぎをされては困る。


「幾つか質問をする。死にたくなければ手短に答えろ。」

「ひっ・・・」

「ワクチンの在り処と、使い方を教えろ。」

「わ・・ワクチンだと・・・?」

「・・・・・」


怪訝な表情を見せた獄長の耳を、俺はカタールで切り飛ばした。


「いぎゃああぁぁぁっ!!?耳がっ俺の耳があぁぁっ!!!」

「余計な時間稼ぎをすれば、そのたびに顔の部品が1つずつ無くなると思え。」

「ひッ・・・ひぃぃぃっ」

「嫌ならば答えろ。お前らが撒いた虫の持つ病原体のワクチンだ。」



俺がそう説明した瞬間、獄長が浮かべた表情は――


絶望だった。



「そっ・・・・それは・・・・それは・・・・ッ!!」

「・・・・・」


尋常ではない様子でがたがた震え始めた獄長の、もう片方の耳を切り飛ばした。
嫌な予感がする。獄長のあの絶望の表情が何故か目の奥に張り付いているようだった。
大げさな悲鳴をあげて耳のあった場所を押さえてうずくまり、がたがた震える獄長が何故か恐ろしく不気味に見える。


「ぐっ・・・ぐうっ・・・・ううううぐ・・・ぐ・・・くく・・・・ぐくくくっ・・くく・・・・」


獄長は震えている。だが様子がおかしかった。
恐怖に震えている、だけではない。これは――



嗤っている。



「くくく・・・くくくくく・・・・」

「・・・何のつもりだ?」

「くはははははははははははははははははは!!」


がばりと跳ね起きるように顔を上げた獄長は、恐怖に引きつった表情を狂気に歪めて壊れたように笑い始めた。
どこか喜悦に歪んだような濁った瞳で俺を見て、奴はまくし立てる。


「どうせ俺は殺されるんだろう、どうせ殺すつもりなんだろう!だったら全部話してやる!!ハハハハ!!絶望しろ!!絶望してお前も死ねばいいッ!!!!」

「・・・・・・・・」



そして、奴は文字通り絶望的な言葉を放った。



「あれにワクチンなど存在しない!!必要ないからだ!お前達には効くが、我々人間には効かないものだからだ!!!」



そんな、バカな。毒物や病原への耐性に関しては、こいつらが散々俺たちの体を弄くり回して強化してきたはずだ。
それに関しては何度も何度も実験に使われてきた経緯から身をもって知っている。俺たちに効いて普通の人間に効かない毒素や病原体などありえないはずだ。
それなのにワクチンも何も作らないなど、まずありえない話だ。


「・・・・出まかせを言うようならば、次は鼻が消えるぞ?」


出まかせを言うな。それは希望ですらなく、願望だったかもしれない。
俺の目にはどう見ても――奴が出まかせを言っているようには見えなかった。
また昏く嗤って、奴は続ける。


「くひひ・・・焦るなよ・・・・・お前達は我々の最高傑作だ。最新鋭の、最強の生体兵器だ。・・・・では、人類最古の生体兵器が何かは知っているか?」

「ユミル・・・・そう言えばお前らはユミルの心臓を・・・・」

「そうだ!かの魔導生体兵器ユミルだ!そのユミルの心臓のレプリカを我々は作り出した!!
 ・・・そしてそれは、お前達にも利用されている。ルーン機関の上を行く、最新鋭の、よりオリジナルに近い"集積体"がね。」

「・・・・それに、何の関係がある?」

「お前達が生きているのはその力のお陰なのさ。戦闘力を重視するあまり、少々無茶な改造を繰り返したものでねェ・・・」


にたり。粘り気のある笑みをこちらに向けて、奴は愉しそうに言った。
吐き気がする。今すぐ永遠に黙らせてやりたいが、まだだ。それに、ただ死ぬだけで済ませるつもりもない。


「ユミルの集積体はお前達の能力を強化すると同時に、生命維持の役割も果たしているのさ。集積体が機能しなくなれば、お前達はもはや生き物として成り立たない!」

「・・・・・・・・」

「パンクというモンスターを知っているだろう?あの虫はパンクの一種を媒介する昆虫だ。そのパンクの突然変異系統を我々は作り出した。」

「パンクだと・・・?」

「そう・・・通常のパンクは主にジェムストーンの類を核にするが・・・・・どんな突然変異系統かは、分かるな?」

「・・・・・・・」


魔力を秘めた無生物に付着し、その力を糧にして魔に近い性質を備えることもあるカビの一種。
・・・・貧民街で拾ってきた一般人を、ああまで化け物に仕立て上げるこいつらの技術ならば不可能な事ではないのだろう。
恐らくそれは、ユミルの心臓が帯びる力を糧とする突然変異系統。あの虫はそれを直接体内に送り込むための・・・・

つまり。


「ユミルの集積体は文字通りお前達の第二の心臓だ。だが我々人間には当然そんな器官はない!だからワクチンなど必要ないのだよ!!」

「・・・・!!」

「クク・・・ユミルの心臓を創った偉大なる先人のミスはユミルを止める方法を研究しなかった事だ。優れた研究者は歴史にも学ぶものなのだよ。」


今、すべての辻褄が合った。・・・・セシルやカトリが最初に倒れた理由も、レディムプティオの効果がなかった理由も。
異常に強化された集中力も、増幅された魔力の流れも、俺たちの体内に埋め込まれたユミルの心臓に大きく負荷をかけるだろう。まして体力のない者ならば・・・・
そして直接の死因ではなかろうと、生命活動が止まれば邪魔な免疫系も機能しなくなる。
そうなれば・・・対象を厚く菌糸で覆って空まで飛ぶほどの増殖力を持つあのパンクだ。その後どうなるかは容易に想像がつく。


「・・・・・・・・そうか。」


時に歯痒いほどに実直で、しかしそれ故に誰よりも信頼の置ける男だった、セイレン。
何かにつけて豪快で、一見大雑把なように見えて、その実誰よりも面倒見がよかった、ハワード。
この地獄にあっても常に優雅に凛として、軽やかに振舞い皆を支えた、マーガレッタ。
勝ち気で負けず嫌いでよく怒り、しかし場違いなほどに明るく前向きだった、セシル。
寡黙で無表情に見えて、実は誰よりも優しく皆を気遣っていた、カトリ。

・・・・・もう誰ひとり、二度と目を覚ますことはないのだ。


それに、このままでは・・・・・


「ひははっ・・・症状を止める方法がない事が分かったか?なぁに、だが心配はいらんぞエレメス=ガイル。お前達が死ぬことはない。」

「・・・どういうことだ?」

「くくっ・・・お前達の死体はイグドラシルの露を主成分とする培養液で処理され、その後ユミルの心臓の交換手術を経て再び実験体として再利用される・・・」

「・・・・何を言い出すかと思えば・・・・」


殺害された場合、処置が早ければ完全な形で蘇生する事は可能だ。だが処置が遅い場合や死体が完全に破壊された場合も、蘇生はできない。
そして病死の場合も、基本的に蘇生は出来ない。その体内に病巣が巣食っており、法術だけではどうにもならないからだ。・・・・しかし。
特殊な培養液で処置の遅れの問題を解消し、交換手術で病巣を除去した場合はどうなるか。

・・・・それでも、やはり蘇生は出来ない。問題は肉体の鮮度の問題だけではないのだ。


「気づいたか?気づいたか!?い、いやこれは殺しを生業にする者の基礎知識かもしれんなぁ。そう、それでもやはり魂魄は肉体に戻る事はできなくなるのだよ。だが!!」


震える声で、しかし愉しくて仕方がないとでも言うような調子で獄長は続ける。
絶望に青ざめた神経質そうな顔の中に、その目だけが狂気と興奮に彩られて爛々と光っていた。

そして一瞬、言葉を区切ったかと思うと目を見開いてにたりと笑った。




「ゾンビやグールの類・・・アンデッドとしてなら、お前達をここに留めることが出来るのだよ。」




・・・・何だと?




「ククク・・・古代グラストヘイムの禁忌の術式を、更に高度に発展させた完璧な死霊術さ。浄化されることも腐れ落ちることもない、完全なる生ける屍を創る技術だ!!
 死霊術により各々の魂魄の意思を奪って各々の肉体に縛りつけ!その際生じる気の淀みを属性変換技術により元の性質に再調整することにより!性能を損ねごぁッ!!?」

「・・・もういい、黙れ。」



背骨が踊るような不快感を押さえつけながら、俺は獄長の腹を刺した。そのまま腹の中に赤い鉱石を1つ置いてくる。
途端に傷口が腐蝕し始め、腹が少しずつ、少しずつ膨れ始めた。特別に長く設定はしたが、1分もすればこいつは飛び散って死ぬだろう。


「おごぼッ・・・!えげぁ・・・」

「・・・その程度で死ねることを幸運に思え。もうお前に構っている時間はない。」


それにしても・・・死霊術。ここの狂人どもはそんなモノまで研究していたのか。なるほど確かに科学も魔術も、元々世界の成り立ちを解明しようとする中で生まれたものだ。
それらを利用して散々俺たちの体をいじくり回し、作り上げ、果ては殺処分した後従順なアンデッドとして再利用しようと言うわけか。


(狂人どもめ・・・!!)


早く。早く上へ向かわなければ。今から行ってどれ程の事が出来るのか、いや上まで体が持つのかすら分からない。・・・だが、このままでは。
あらゆる毒物や病原には解毒剤やワクチンがある。俺たちに効果を及ぼすような強力な物なら尚更なはずだった。
そう思い込んで判断を誤った。奴らにはあらゆる意味で常識が通用しないという事は、身を以って知っていたはずなのに。


「ヒュッケ・・・!!」


グラグラと熱に浮かされた体を振り切るように、焦燥を抱えて走り出した。
上へ。早く上へ。考えうる限りの方法で殺してやろうと思っていた獄長の、恐怖に裏返った悲鳴ももはや意識に入らなかった。

・・・・そして、扉の向こうに展開する敵の気配すらも。



「撃て!!!」

「ッ!?」



間に合わない。そう知覚したのは目の前の分厚い扉が砕け散る、ほんの一瞬前だった。
咄嗟に防御体勢を取りながら横に跳んだ俺の目の前で扉は木屑に姿を変え、弾丸の雨が俺の体に突き刺さる。
空中でバランスを失った俺はコンクリートの床に叩きつけられ、扉のすぐ横で無様に転がった。


「がは・・・っ!」


一瞬、視界がブラックアウトして、気がつけば天井が見えていた。

狂ったように火を噴くガトリングの音と、隊長らしい男が何か叫んでいる声がやけに遠く聞こえる。

体の中は火箸を突っ込まれたように熱く、残された力も血とともに流れ出ていくようだった。

急所は避けたが、それでも。それでも既に俺にはここを脱出するだけの力はなさそうだ。

やがて銃声は止み、聞こえるのは突撃準備の号令。このまま部屋に突入して俺にとどめを刺すつもりか。





だが、そうは、行くか。





「おごっ!!ぼっ!ごごぼぼぼごごごごごごご!!!?」


ばづん。


獄長の体が破裂した、その瞬間に力を振り絞って立ち上がる。
敵は飛び散る肉片と体液、そして異様な臭気に気をとられている。その目前に転がり込んだ。


「しまっ・・・!」

「うぁぁッ!?」


飛び込んでしまえば、鈍い。銃口がこちらを向くより早く通り道の2人の喉笛を掻っ切り、走る。
背後で響く銃声は同士討ち。もうそれには目もくれず、ばらばらと血の跡を曳いて階段への道を駆けた。


「ヒュッケ・・・無事でいてくれ・・・!」


あの6人が隊伍を組んで正面から当たれば、奴らは恐れる相手ではない。俺たちを抑え込みに来た上級戦闘員の殆どは、あの高台で叩き潰したのだから。
だからこそ捕縛不能と判断されて、あの虫の使用許可が下りたのだろう。そして今――
恐らくあの6人も、捕縛不能と判断されただろう。勿論それに備えて"虫"のことは教えたし、俺たちもすぐ追いつく計算だった。ワクチンだってあるはずだった。
だが、計算も前提もとうに崩れた。もし敵が物量で圧倒する戦術に出たならば。それが可能なだけの"虫"がストックされているならば。


(くそっ・・・!!)


追い縋る敵の声はまだ遠く、その角を曲がれば階段はすぐそこだ。
上へ。早く上へ。ヒュッケ達のところまで。最後の力で無事に外まで連れ出さなければ。
階段の横に差し掛かった時、上から何かゴトゴトと音が聞こえた。
足音は2つ。何を運んでいるかは知らないが、動きは鈍かった。そのまま振り切れると判断し、角を曲がる。


「うっ・・・!!」

「エ・・・エレメス=ガイル!!」


その2人組は、何やら大きな荷車を運んでいた。中身は見えないが、それをどうにかする前に奴らは自滅した。
荷車の後ろを支えていた男は逃げ出して、下の男は荷車に押し潰された。
逃げた男の後頭部に向かってナイフを投げ、横に避けて落下してくる荷車を見送る。そして――



俺は見てしまった。

階段で弾み、壁に激突し、ひっくり返ってぶち撒けられる荷車の中身を。





「な・・・・・・」





セニア、アルマ、イレンド、カヴァク、ラウレル。そして――




「ヒュ・・・ッケ・・・・」




そこには、ヒュッケ達が転がっていた。
殺されたヒュッケ達の亡骸が。


折れた剣を握り締めたセニアの体は鎧の上から叩き壊されたようにボロボロで、イレンドの左腕は歪んだ盾と一緒に体の横に落ちていた。
ざっくりと背骨を叩き折られているのはカヴァクとラウレル。階段のすぐ下で血の海に沈んでいるのはアルマ。

・・・そしてそのすぐ横に、ヒュッケの亡骸が投げ出されていた。


「・・・・・ヒュッケ。」


首には生々しく深い傷跡が。光を失った半開きの目には涙の跡が。
虫を防ぐために借りたのだろう、ラウレルのものらしいマントは血に染まってボロボロだった。
それでも、やはり。防ぐ事ができないほどの量をぶつけられたのだろう。絶望を告げるように、虫に刺された跡がいくつもあった。


「・・・・ヒュッケ・・・・」


そっと頬に手を触れると、首がぐりんとありえない方向に傾き、ヒュッケは壁に血の跡を残してずるずると倒れていった。
後ろから追いかけてくる敵の足音が、最後の角を曲がってこちらに近づいてくる。

ヒュッケ達を殺した後、下の応援に駆けつけたのだろう、敵の足音が。



「・・・・・・・・・・・・」



俺の中に残っていた最後の何かが、音を立ててぶつりと切れた。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 





びちゃり。びちゃり。

重火器で武装した男たちの死体が累々と転がる血の海の中から、足を引きずってふらふらと、ひとりのアサシンクロスが歩いて出てくる。
彼自身のものか足元に転がる男たちのものか、べっとりと血糊に塗れた彼はその姿には似つかわしくなく、大きな荷車を曳いていた。
彼の名は、エレメス=ガイル。生体工学研究所における生体兵器研究プロジェクト被験者"オリジナル"その最後の生存者。
彼が曳く荷車の中には、彼の妹とその仲間たちの亡骸が積まれていた。


「・・・・・・・・・」


ふと頭を巡らせたのは、遠くから駆けつける敵の増援の気配を感じたからだろうか。
最後の力を振り絞るように少し速度を上げ、荷車を曳いて近くの部屋へと入っていった。
そして荷車を少し奥へ押しやり――焼却用オイルを撒いてその荷車に火を放った。


「・・・・・・すまない。」


燃え盛る炎を前に、彼は掠れた声でそう呟いた。
もう妹たちを救うことも、下で倒れた仲間たちを救うことも出来ない。自分にもこれ以上戦う余力がない事も、彼は知っていた。
ここで倒れれば、自分も仲間たちもアンデッドとして蘇らされ、朽ち果てるまで意思なき実験体として生かされ続けるだろう。


だがせめて妹たちだけは、人間として。


最後まで希望を失わなかった暗殺者は、遂に望みを捨てた。
そして、自分の最期の仕事を悟った。こちらに殺到してくる敵の増援の足音を聞きながら、炎を背に部屋の入り口の壁際に立つ。


「いたぞ!!・・・っ、何だこの煙は?」

「・・・実験体だ!こっちに運んだ実験体の死体が燃やされてるぞ!!」


部屋の入り口は完全に包囲され、幾つもの銃口がエレメスの方を向いた。
だが、エレメスは動かない。炎を背に、ただゆらりと枯れ柳のように立っている。


「まずい、手遅れになる前に消火して回収するんだ!撃て!!」

「ダメです!壁が邪魔になって・・・!」

「止むをえん、もう少し近づいて――」

「かっ・・・!」


隊長が命令を下そうとした瞬間、制するように光が疾り、先頭の兵士がどさりと倒れた。
眉間を撃ち抜いたのはベノムナイフ。どす黒く変色した傷口からは血と脳漿がどろどろ流れ、うっすらと毒の煙が立ち昇っていた。


「くっ・・・!総員突入!!」


それならば数で押し切ろうと、隊長は一斉突入の命令を下す。それを見るか見ないかのうちに、エレメスは素早くカタールを手にした。
無言で振るう床すれすれの一閃は、一条の荊を生み出した。それはそう広くない扉を通って突入してくる隊列にぶつかると、歪な牙へと姿を変える。
足元からずぶりと食い込んだ"牙"は兵士たちの腹や胸を突き破り、巻き込むように交差して彼らを噛み砕いた。


「ぎゃああああアアア!!!」

「うああああぼがッ!!」


前の者が消えたと思えば上からその「部品」が降りかかり、怯む間もなく追撃が後続にも同じ運命を辿らせる。
たまらず突撃が止まれば、エレメスもまた止まる。断末魔が交錯する阿鼻叫喚の後に訪れたのは、不気味なほどの静寂だった。


「・・・・・・ッ」


誰も動けず、誰も何も言えなかった。

屍山血河を前に積み、火葬の炎を背に負って、ゆらりと立つ手負いの死神は今にも倒れそうで、しかし一分の隙もない。
それは絶対的な篭城だった。少なくともこの研究所に今残っている戦力で突破できるものではなかった。
エレメスはもう、ここで死ぬつもりだった。力尽きて死ぬまで、ここを動くつもりはなかった。
弔いの火が燃え尽きるまで、狂人たちの手から妹たちの亡骸を守るために。


だが、それでも。


「前衛だ!残った前衛をありったけ揃えろ!!何としても回収するんだ、もう後はないぞ!!」


隊長の檄で、兵士たちの顔色が変わった。
もはやガーディアンは管理ブロックが水没して起動できず、生体兵器も使い切り、上級戦闘員も殆どが死に絶えた。
貧民街出身の一般戦闘員である彼らこそが、この研究所に残った最後の戦力だった。
もし失敗するような事があれば、まことしやかな噂は現実の末路として彼らの身に降りかかるだろう。
彼ら全員が、薄々それを感じていた。この研究所の主戦力を業火のように嘗め尽くした6人のうちの1人を前にしても、退く訳には行かなかった。


「突入!!」


消火器をかき集め、前衛にそれを持たせて悲壮な突撃が始まった。
だが暗殺者は冷静に、射手を中心に次々と噛み砕いてゆく――消火器の射程など、そう長いものでもないのだから。

そして――


「ぐっ・・・!!」


連絡を受けて司令部が派遣した"黒服"の隠行もエレメスの感覚は捉えている。
突撃に紛れて部屋に侵入しようとした"黒服"を投擲短剣が打ち落とす。ぎりぎり防いで跳び退るも、彼らもそれ以上接近する事はできなかった。
鈍磨した感覚を研ぎ澄まし、間合いの中の事象のみを拾い集め、それでもこの"眼力"を維持していられるのは奇跡に近かった。
最後の切り札を封じられ、隊長は決断した。巨大で足の遅いそれがここに届くまでには、恐らくあの炎は回収対象を焼き尽くしているだろうと思いながらも。


「・・・司令部、司令部聞こえますか?エレメス=ガイルによる封鎖の突破が困難です。研究所入り口のガーディアンの派遣を要請します。」


暫しの押し問答の後、状況を把握した司令部は独立的に制御されている研究所入り口のガーディアンの派遣を承諾した。
隠行が意味を成さないのならば、黒服たちも近づくことは叶わない。もはや誰も、何も出来なかった。


ガーディアンが現場に到着したのはそれから更に20分以上も後のことだった。
勢いよく燃え盛っていた炎も既に燃え尽きかけて下火になり、もはや誰の目から見ても手遅れだった。
それでもまだ微動だにせず立ち塞がるエレメスを打ち倒すため、ガーディアンを盾にした部隊が恐る恐る近づくと――




暗殺者は既に、そこに立ったまま息絶えていた。




「・・・死んでいる・・・のか?」


既にこちらが射程範囲に入っているのに動くこともなく、その目からは光が失われ、明らかにそれは死んでいた。
だが彼らはまるで見えない刃を喉元に突きつけられているように、動くことが出来ずにいた。その暗殺者はもう死んでいて、もう刃を振るうことは出来ない筈なのに。


「か・・・確認しろ。確認して、早く回収を!」

「・・・・・・ッ」


しかし死して尚立ちはだかる暗殺者の、もはや像を捉えぬその瞳はまるで、見入る者の魂を飲み込む奈落の深淵のようで。
背骨に注射器で冷水を注入されるような悪寒に、彼らは暗殺者の後ろにくすぶる火葬場に手を出すことが出来ずにいた。
息が詰まるような空気の中、少しずつ時間だけが過ぎてゆく。そして・・・・・



「う・・・・うわああああああああああああああああッ!!!!」



凍りついたような緊張に耐え切れなくなったのか、糸が切れたように射手のひとりが乱射した。
銃弾を受けた暗殺者の亡骸はその衝撃に吹き飛ばされ、ついに地面に倒れ伏した。


「ハァッ・・・!ハァッ・・・!ハッ・・・ハァッ・・・・・」


銃声が止むと、射手の荒い息遣いだけが静まり返った部屋の中に染み渡っていった。
だらだらと滴る脂汗を拭いもせずに銃を構えて突っ立っている彼の後ろで、慌てたように隊長が叫ぶ。


「と、とにかく消火だ!回収急げ!!」


消火器が噴射され、堰を切ったように慌しく回収作業が始まる。
その横で打ち捨てられた暗殺者の亡骸は、このままでは終わらせないとでも言うように、天を睨んでいた。
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